本格数学クイズ (さまざまな解析学)
無理数論
クイズ《無理数の無理数乗》
無理数の無理数乗として表される有理数は存在するか.
存在する場合にはその一例を挙げ, 存在しない場合にはその理由を説明せよ.
(有名問題, 参考: $2020$ 横浜市立大)
答え
存在する, $\sqrt 2^{\sqrt 2}$ または $(\sqrt 2^{\sqrt 2})^{\sqrt 2}.$
解説
$a = \sqrt 2^{\sqrt 2}$ とする.
- (i)
- $a$ が有理数であるとき (実際は偽). $\sqrt 2$ は無理数であるから, $a$ が無理数の無理数乗として表される有理数の一例を与える.
- (ii)
- $a$ が無理数であるとき (実際は真). \[ a^{\sqrt 2} = (\sqrt 2^{\sqrt 2})^{\sqrt 2} = (\sqrt 2)^{\sqrt 2\cdot\sqrt 2} = (\sqrt 2)^2 = 2\] が無理数の無理数乗として表される有理数の一例を与える.
参考
$2^{\sqrt 2}$ のような実数が無理数であるかどうかは, 長い間未解決であった.
次の「ゲルフォント=シュナイダーの定理」(A. Gel'fond, T. Schneider, $1934$ 年) が示されたことにより, $2^{\sqrt 2},$ $\sqrt 2^{\sqrt 2}$ などの実数が無理数であることが明らかになった:
$0$ でも $1$ でもない「代数的数」$\alpha$ と, 有理数でない「代数的数」$\beta$ に対して, $\alpha ^\beta$ は「超越数」である.
ただし, ある有理数係数多項式 $f(x)$ に対して $f(x) = 0$ の解である複素数を「代数的数」(algebraic number) と呼び,「代数的数」でない複素数を「超越数」(transcendence number) と呼ぶ.
例えば, $\sqrt 2$ は「代数的数」, $2^{\sqrt 2},$ $2^{\frac{1}{2}+\sqrt 2}$ は「超越数」である.
また, $(\sqrt 2^{\sqrt 2})^{\sqrt 2}$ は無理数の無理数乗として表される有理数の一例を与える.
クイズ《$2$ つの整数の整数乗が等しくなる条件》
$a,$ $b$ を $1$ より大きい整数とする.
$a$ を整数乗した値と $b$ を整数乗した値が等しくなるのはどのような場合か.
(参考: $2023$ 共通テスト, $2005$ お茶の水女子大)
答え
ある整数 $c,$ $m,$ $n$ ($c > 1;$ $m,$ $n$: 互いに素) に対して $a = c^n,$ $b = c^m$ となるとき.
解説
\[ a^m = b^n \quad \cdots [1]\]
を満たす整数 $m,$ $n$ が存在するための必要十分条件を求める.
$[1]$ は $a^{\frac{m}{n}} = b$ と同値であるから, $m,$ $n$ が互いに素な正の整数であるとしても一般性を失わない.
- (1)
- このような正の整数 $m,$ $n$ の存在を仮定する. このとき, 素因数分解の一意性により, $[1]$ の両辺は同じ素因数をもつから, 相異なる素数 $p_1,$ $\cdots,$ $p_r$ がそのすべてであるとする. $a,$ $b$ は正の整数 $i_1,$ $\cdots,$ $i_r,$ $j_1,$ $\cdots,$ $j_r$ を用いて \[\begin{aligned} a &= p_1{}^{i_1}\cdots p_r{}^{i_r} \quad \cdots [2], \\ b &= p_1{}^{j_1}\cdots p_r{}^{j_r} \quad \cdots [3] \end{aligned}\] と表される. これらを $[1]$ に代入すると \[ p_1{}^{i_1m}\cdots p_r{}^{i_rm} = p_1{}^{j_1n}\cdots p_r{}^{j_rn}\] となるから, 素因数分解の一意性により \[ i_1m = j_1n, \quad \cdots, \quad i_rm = j_rn\] が得られる. $m,$ $n$ は互いに素であるから, ある正の整数 $k_1,$ $\cdots,$ $k_r$ に対して \[\begin{aligned} i_1 = k_1n, \quad &\cdots, \quad i_r = k_rn, \\ j_1 = k_1m, \quad &\cdots, \quad j_r = k_rm \end{aligned}\] が成り立つ. これらを $[2],$ $[3]$ に代入すると, $c = p_1{}^{k_1}\cdots p_r{}^{k_r}$ として, \[\begin{aligned} a &= p_1{}^{k_1n}\cdots p_r{}^{k_rn} = (p_1{}^{k_1}\cdots p_r{}^{k_r})^n = c^n, \\ b &= p_1{}^{k_1m}\cdots p_r{}^{k_rm} = (p_1{}^{k_1}\cdots p_r{}^{k_r})^m = c^m \end{aligned}\] が得られる.
- (2)
- 逆に, ある整数 $c,$ $m,$ $n$ ($c > 1;$ $m,$ $n$: 互いに素) に対して $a = c^n,$ $b = c^m$ となるとき,
\[ a^m = b^n = c^{mn}\]
が成り立つ.
以上から, 求める条件は, ある整数 $c,$ $m,$ $n$ ($c > 1;$ $m,$ $n$: 互いに素) に対して $a = c^n,$ $b = c^m$ となることである.
参考
$1$ より大きい整数 $a,$ $b$ に対して, 次の条件は同値である.
- (i)
- $\log_ab$ は有理数である.
- (ii)
- ある整数 $c,$ $m,$ $n$ ($c > 1;$ $m,$ $n$: 互いに素) に対して $a = c^n,$ $b = c^m$ となる.