本格数学クイズ (確率論)
確率に関する問題でも, 組合せ論的な意味合いが強い問題は「本格数学クイズ (組合せ論)」のページに掲載しています.
条件付き確率
クイズ《モンティ・ホール問題》
$3$ つのドア A, B, C のうち, いずれかのドアの向こうに賞品が無作為に隠されている.
挑戦者はドアを $1$ つだけ開けて, 賞品があれば, それをもらうことができる.
挑戦者がドアを選んでからドアを開けるまでの間に, 司会者は残った $2$ つのドアのうち, はずれのドアを $1$ つ無作為に開ける.
このとき, 挑戦者は開けるドアを変更することができる.
ドアを変更するとき, しないときのどちらが賞品を得る確率が高いか.
(有名問題)
答え
ドアを変更するとき.
解説
ドア A, B, C の向こうに賞品があるという事象をそれぞれ $A,$ $B,$ $C$ とおく.
さらに, 挑戦者が A を選んだとき, 司会者が C を開けるという事象を $E$ とおく.
司会者が C を開けたとき, A が当たりである条件付き確率 $P_E(A),$ B が当たりである条件付き確率 $P_E(B)$ の大小を比較すればよい.
- (1)
- まず, $P(E)$ を求める.
賞品は無作為に隠されているから,
\[ P(A) = P(B) = P(C) = \frac{1}{3}\]
である.
- A が当たりのとき司会者は C の他に B も開けることができるから, $P_A(E) = \dfrac{1}{2}$ であり, \[ P(A\cap E) = P(A)P_A(E) = \frac{1}{3}\cdot\dfrac{1}{2} = \frac{1}{6} \quad \cdots [1]\] である.
- B が当たりのとき司会者は C を開けるしかないから, $P_B(E) = 1$ であり, \[ P(B\cap E) = P(B)P_B(E) = \frac{1}{3}\cdot 1 = \frac{1}{3} \quad \cdots [2]\] である.
- C が当たりのとき司会者は C を開けることはないから, $P_C(E) = 0$ であり, \[ P(C\cap E) = P(C)P_C(E) = \frac{1}{3}\cdot 0 = 0\] である.
- (2)
- 次に, $P_E(A),$ $P_E(B)$ の各値を求めて比較する.
- $[1]$ から, \[ P_E(A) = \frac{P(A\cap E)}{P(E)} = \frac{1}{6}\div\frac{1}{2} = \frac{1}{3}\] である.
- $[2]$ から, \[ P_E(B) = \frac{P(B\cap E)}{P(E)} = \frac{1}{3}\div\frac{1}{2} = \frac{2}{3}\] である.
参考
- 本問は, アメリカのテレビ番組 “Let's make a deal” の中で行われたゲームに由来をもち, その司会者の名に因んで「モンティ・ホール問題」 (Monty Hall problem) と呼ばれる.
- 全事象が互いに排反な事象 $A_1,$ $\cdots,$ $A_n$ に分けられるとき,「全確率の定理」(theorem of total probability) \[\begin{aligned} P(E) &= P(A_1\cap E)+\cdots +P(A_n\cap E) \\ &= P(A_1)P_{A_1}(E)+\cdots +P(A_n)P_{A_n}(E) \end{aligned}\] が成り立つ.
- (2) で導いた等式 \[ P_E(A) = \dfrac{P(A)P_A(E)}{P(E)}\] は, 「ベイズの定理」(Bayes' theorem) として知られている.
- 「モンティ・ホール問題」によく似た「$3$ 囚人の問題」「ベルトランの箱の問題」も有名である.
期待値
クイズ《じゃんけんの勝者の人数》
$1$ 回だけじゃんけんをするとき, 勝者の人数が最も多くなると見込まれるのは, 何人でじゃんけんをするときか.
(オリジナル)
答え
$4$ 人.
解説
$n$ を $2$ 以上の整数とする.
$n$ 人で $1$ 回だけじゃんけんをするとき, 勝者の人数を $X_n$ とおく.
求めるべきは, $X_n$ の期待値 $E(X_n)$ を最大にする $n$ の値である.
- (1)
- まず, 勝者が $k$ 人 $(1 \leqq k \leqq n-1)$ である確率 $P(X_n = k)$ を求める. $n$ 人のじゃんけんで, 全員の手の出し方は $3^n$ 通りある. 勝者が $k$ 人 $(1 \leqq k \leqq n-1)$ であるとき, 勝者と敗者を分ける方法が ${}_n\mathrm C_k$ 通りあり, そのおのおのに対して勝者と敗者の手の組合せが ${}_3\mathrm C_2$ 通りあるから, $X_n = k$ となる確率は \[ P(X_n = k) = \frac{{}_n\mathrm C_k\cdot {}_3\mathrm C_2}{3^n} = \frac{{}_n\mathrm C_k}{3^{n-1}} \quad \cdots [1]\] である.
- (2)
- 次に, $X_n$ の期待値 $E(X_n)$ を求める. $X_n$ は $0$ 以上 $n-1$ 以下の整数の値をとるから, $[1]$ により, $X_n$ の期待値は \[\begin{aligned} E(X_n) &= \sum_{k = 0}^{n-1}kP(X_n = k) \\ &= \sum_{k = 1}^{n-1}kP(X_n = k) \quad (\because 0\cdot P(X_n = 0) = 0) \\ &= \sum_{k = 1}^{n-1}k\cdot\frac{{}_n\mathrm C_k}{3^{n-1}} \quad (\because [1]) \\ &= \sum_{k = 1}^{n-1}n\cdot\frac{{}_{n-1}\mathrm C_{k-1}}{3^{n-1}} \quad (\because k\,{}_n\mathrm C_k = n\,{}_{n-1}\mathrm C_{k-1}) \\ &= \frac{n}{3^{n-1}}\sum_{k = 1}^{n-1}{}_{n-1}\mathrm C_{k-1} \\ &= \frac{n}{3^{n-1}}\{ (1+1)^{n-1}-{}_{n-1}\mathrm C_{n-1}\} \\ &= \frac{n(2^{n-1}-1)}{3^{n-1}} \end{aligned}\] である. 最後から $2$ つめの等号では二項定理を使った.
- (3)
- 最後に, $E(X_n)$ を最大にする $n$ の値を求める. \[\begin{aligned} \frac{E(X_{n+1})}{E(X_n)} &= \frac{(n+1)(2^n-1)}{3^n}\cdot\frac{3^{n-1}}{n(2^{n-1}-1)} \\ &= \frac{(2n+2)(2^n-1)}{3n(2^n-2)} \end{aligned}\] であるから, $n \geqq 3$ のとき \[\begin{aligned} &E(X_n) > E(X_{n+1}) \iff \frac{E(X_{n+1})}{E(X_n)} < 1 \\ &\iff \frac{(2n+2)(2^n-1)}{3n(2^n-2)} < 1 \\ &\iff (2n+2)(2^n-1) < 3n(2^n-2) \\ &\iff 4n-2 < (n-2)2^n \\ &\iff \frac{4n-2}{n-2} < 2^n \iff 4+\frac{6}{n-2} < 2^n \\ &\iff n \geqq 4 \quad \left(\because 4+\frac{6}{n-2} \leqq 10\right) \end{aligned}\] が成り立つ. また, \[ E(X_2) = \frac{2}{3}, \quad E(X_3) = 1, \quad E(X_4) = \frac{28}{27}\] である. よって, \[ E(X_2) < E(X_3) < E(X_4) > E(X_5) > E(X_6) > \cdots\] であるから, $E(X_n)$ は $n = 4$ のとき最大値 $\dfrac{28}{27}$ をとる.
参考
- $n$ が小さいときの $E(X_n)$ の近似値は, 次の表の通りである.
$n$ $2$ $3$ $4$ $5$ $E(X_n)$ $0.666\cdots$ $1$ $1.037\cdots$ $0.925\cdots$ $6$ $7$ $8$ $9$ $10$ $0.765\cdots$ $0.604\cdots$ $0.464\cdots$ $0.349\cdots$ $0.259\cdots$ - 極限値 $\lim\limits_{n \to \infty}E(X_n)$ については, こちらを参照されたい.
クイズ《夫婦円卓問題》
$n$ 組 $(n \geqq 2)$ の夫婦 $2n$ 人が, 男女交互に, それ以外は無作為に円卓の周りに座るとき, 隣どうしに座ると見込まれる夫婦は何組か.
(有名問題)
答え
$2$ 組.
解説
隣どうしに座る夫婦の総数を $X$ とおく.
求めるべきは, $X$ の期待値 $E(X)$ である.
席に $1$ から $2n$ までの番号をつけて, 各番号 $k$ $(1 \leqq k \leqq 2n)$ に対して, 番号 $k$ の席に座る人とその右隣に座る人が夫婦であるとき $X_k = 1,$ そうでないとき $X_k = 0$ と定める. $n \geqq 2$ に注意すると, 隣どうしに座る夫婦の総数 $X$ は右隣に伴侶が座る人の総数に等しいから, \[ X = X_1+\cdots +X_{2n} \quad \cdots [1]\] が成り立つ.
席に $1$ から $2n$ までの番号をつけて, 各番号 $k$ $(1 \leqq k \leqq 2n)$ に対して, 番号 $k$ の席に座る人とその右隣に座る人が夫婦であるとき $X_k = 1,$ そうでないとき $X_k = 0$ と定める. $n \geqq 2$ に注意すると, 隣どうしに座る夫婦の総数 $X$ は右隣に伴侶が座る人の総数に等しいから, \[ X = X_1+\cdots +X_{2n} \quad \cdots [1]\] が成り立つ.
- (1)
- まず, $X_k$ の期待値 $E(X_k)$ $(1 \leqq k \leqq 2n)$ を求める. 番号 $k$ の席に座る人とその右隣に座る人が夫婦である確率は $\dfrac{1}{n},$ そうでない確率は $\dfrac{n-1}{n}$ であるから, \[ E(X_k) = 0\cdot\frac{n-1}{n}+1\cdot\frac{1}{n} = \frac{1}{n} \quad \cdots [2]\] である.
- (2)
- 次に, $X$ の期待値 $E(X)$ を求める. $[1],$ $[2]$ により, \[\begin{aligned} E(X) &= E(X_1+\cdots +X_{2n}) = E(X_1)+\cdots +E(X_{2n}) \\ &= 2n\cdot\frac{1}{n} = 2 \end{aligned}\] である.