有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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相加・相乗平均の不等式

相加・相乗平均の不等式

定義《相加平均, 相乗平均, 調和平均》

 $n$ を正の整数, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ を実数とする.
(1)
$\dfrac{x_1+\cdots +x_n}{n}$ を $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の相加平均 (arithmetic mean) と呼ぶ.
(2)
$x_1,$ $\cdots,$ $x_n \geqq 0$ のとき, $\sqrt[n]{x_1\cdots x_n}$ を $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の相乗平均 (geometric mean) と呼ぶ.
(3)
$x_1,$ $\cdots,$ $x_n \neq 0$ のとき, $\dfrac{n}{x_1{}^{-1}+\cdots +x_n{}^{-1}}$ を $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の調和平均 (harmonic mean) と呼ぶ.

参考

 上底の長さが $a,$ 下底の長さが $b$ である台形において,
  • 相加平均 $\dfrac{a+b}{2}$ つまり $\dfrac{a}{2}+\dfrac{b}{2}$ は, 台形の高さを二等分するような, 斜辺を結び, 底辺と平行な線分の長さを表す.
  • 相乗平均 $\sqrt{ab}$ つまり $a:x = x:b$ の解は, 台形を相似な $2$ つの台形に分割するような, 斜辺を結び, 底辺と平行な線分の長さを表す.
  • 「調和平均」$\dfrac{2ab}{a+b}$ つまり $\dfrac{a}{a+b}\cdot b+\dfrac{b}{a+b}\cdot a$ は, 台形の対角線の交点を通るような, 斜辺を結び, 底辺と平行な線分の長さを表す.
  • 「$2$ 乗平均平方根」$\sqrt{\dfrac{a^2+b^2}{2}}$ つまり $x^2-a^2 = b^2-x^2$ の解は, 台形の面積を二等分するような, 斜辺を結び, 底辺と平行な線分の長さを表す.

定理《相加・相乗平均の不等式》

 $2$ 以上の整数 $n,$ 正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1\cdots x_n} \geqq \frac{n}{x_1{}^{-1}+\cdots +x_n{}^{-1}}\] が成り立つ. 等号成立は $x_1 = \cdots = x_n$ の場合に限る.

証明 1: $n$ が $2$ の累乗の場合に着目 (Cauchy, 1821)

 左の不等号について示す.
(I)
$n = 2^m$ ($m$: 正の整数) の場合を, $m$ に関する数学的帰納法で示す.
(i)
$n = 2$ の場合は, \[ (x+y)-2\sqrt{xy} = (\sqrt x-\sqrt y)^2 \geqq 0\] から従う.
(ii)
$n = 2^m$ ($m$: 正の整数) の場合に成り立つとする. このとき, \[\begin{aligned} &\frac{x_1+\cdots +x_{2^{m+1}}}{2^{m+1}} \\ &= \frac{1}{2^m}\cdot\frac{(x_1+x_2)+\cdots +(x_{2^{m+1}-1}+x_{2^{m+1}})}{2} \\ &\geqq \frac{\sqrt{x_1x_2}+\cdots +\sqrt{x_{2^{m+1}-1}x_{2^{m+1}}}}{2^m} \\ &\geqq \sqrt[2^m]{\sqrt{x_1x_2}\cdots\sqrt{x_{2^{m+1}-1}x_{2^{m+1}}}} \\ &= \sqrt[2^{m+1}]{x_1\cdots x_{2^{m+1}}} \end{aligned}\] となるから, $n = 2^{m+1}$ の場合に左側の不等号が成り立つ. また, 等号成立は, $x_1 = x_2,$ $\cdots,$ $x_{2^{m+1}-1} = x_{2^{m+1}}$ かつ $\sqrt{x_1x_2} = \cdots = \sqrt{x_{2^{m+1}-1}x_{2^{m+1}}}$ のとき, つまり $x_1 = \cdots = x_{2^{m+1}}$ の場合に限る.
よって, $n = 2^m$ ($m$: 正の整数) の場合に成り立つ.
(II)
一般の場合. $n$ を $2$ 以上の整数とする. このとき, $2^{m-1} < n \leqq 2^m$ なる正の整数 $m$ が存在する. $a = \dfrac{x_1+\cdots +x_n}{n}$ とおくと, \[\begin{aligned} a &= \frac{na+(2^m-n)a}{2^m} = \frac{x_1+\cdots +x_n+(2^m-n)a}{2^m} \\ &\geqq \sqrt[2^m]{x_1\cdots x_na^{2^m-n}} \end{aligned}\] となり, \[\begin{aligned} a^{2^m} &\geqq x_1\cdots x_na^{2^m-n} \\ a^n &\geqq x_1\cdots x_n \\ a &\geqq \sqrt[n]{x_1\cdots x_n} \end{aligned}\] となって, 左側の不等号が成り立つ. また, 等号成立は, $x_1 = \cdots = x_n = a$ のとき, つまり $x_1 = \cdots = x_n$ の場合に限る.
 右の不等号については, \[\frac{x_1{}^{-1}+\cdots +x_n{}^{-1}}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1{}^{-1}\cdots x_n{}^{-1}}\] の両辺の逆数をとることで示される.

証明 2: 並べ替え不等式を利用 (内田康晴, 2008)

 こちらを参照.

証明 3: 和・積の大小関係を利用 (Ehlers)

 こちらを参照.

証明 4: 指数関数の $1$ 次関数による近似を利用 (Polya, 1952)

 こちらを参照.

証明 5: 数学的帰納法と微分法を利用

 こちらを参照.

証明 6: Bernoulli の不等式を利用 (Newman, 1960)

 こちらを参照.

証明 7: Young の不等式を利用

 こちらを参照.

注意

 $n = 1$ の場合にも上記の不等式は成り立つが, その場合にはすべての正の数 $x_1$ に対して等号が成り立つので, $n \geqq 2$ として定理を述べた.

高校数学の問題

式と証明

問題《$2$~$4$ 変数の相加・相乗平均の不等式》

(1)
$x,$ $y > 0$ のとき, $x+y \geqq 2\sqrt{xy}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(2)
$x,$ $y,$ $z,$ $w > 0$ のとき, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(3)
(2) において, $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすることにより, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(4)
$\triangle\mathrm{ABC}$ において $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $s = \dfrac{a+b+c}{2}$ とおくとき「ヘロンの公式」 \[\triangle\mathrm{ABC} = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\] (こちらを参照) が成り立つことを使って, 周の長さが一定の三角形のうち面積が最大のものは正三角形であることを示せ.

解答例

 こちらを参照.

問題《因数分解と $3$ 変数相加・相乗平均の不等式》

(1)
\[\begin{aligned} &X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X+Y+Z)(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \end{aligned}\] が成り立つことを示せ.
(2)
\[\begin{aligned} &2(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2 \end{aligned}\] が成り立つことを示せ.
(3)
$x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ.

解答例

 こちらを参照.

問題《並び替えと $3$ 変数相加・相乗平均の不等式》

 次のことを示せ.
(1)
$a \geqq b,$ $c \geqq d$ のとき, $ac+bd \geqq ad+bc$ が成り立つ.
(2)
$X,$ $Y \geqq 0$ のとき, $X^2+Y^2 \geqq 2XY$ が成り立つ.
(3)
$X,$ $Y,$ $Z \geqq 0$ のとき, $X^3+Y^3+Z^3 \geqq 3XYZ$ が成り立つ.
(4)
$x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つ.

解答例

 こちらを参照.

問題《和・積の関係と相加・相乗平均の不等式》

 次のことを示せ.
(1)
$a \leqq 1 \leqq b$ のとき \[ a+b \geqq ab+1 \quad \cdots [1]\] が成り立つ.
(2)
$a_1\cdots a_n = 1$ を満たす $n$ 個の正の数 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n$ に対して \[ a_1+\cdots +a_n \geqq n \quad \cdots [2]\] が成り立つ.
(3)
正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[ x_1+\cdots +x_n \geqq n(x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}} \quad \cdots [3]\] が成り立つ.

解答例

 こちらを参照.

問題《レームスの不等式とオイラーの不等式》

 $\triangle\mathrm{ABC}$ において, $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $S = \triangle\mathrm{ABC}$ とおき, 外接円の半径を $R,$ 内接円の半径を $r$ とおく.
(1)
不等式 \[ abc \geqq (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)\] が成り立つことを, \[ x = -a+b+c, \quad y = a-b+c, \quad z = a+b-c\] という置き換えを使って示せ.
(2)
不等式 \[ R \geqq 2r\] が成り立つことを示せ. ただし,「ヘロンの公式」 \[ S = \dfrac{1}{4}\sqrt{(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)}\] (こちらを参照) が成り立つことは, 証明なしに使ってよい.

解答例

 こちらを参照.

三角関数

問題《オノの不等式》

 $\triangle\mathrm{ABC}$ において, $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $A = \angle\mathrm A,$ $B = \angle\mathrm B,$ $C = \angle\mathrm C,$ $S = \triangle\mathrm{ABC}$ とおく. 次のことを示せ. ただし, $x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つこと (こちらこちらを参照) は, 証明なしに使ってよい.
(1)
$\tan A\tan B\tan C = \tan A+\tan B+\tan C$ が成り立つ.
(2)
$\triangle\mathrm{ABC}$ が鋭角三角形のとき, \[ (4S)^6 \geqq 27(b^2+c^2-a^2)^2(c^2+a^2-b^2)^2(a^2+b^2-c^2)^2\] が成り立つ.

解答例

 こちらを参照.

微分法 (文系・理系共通)

問題《放物線の接線の交点と相加・相乗平均の不等式》

 放物線 $C:y = x^2$ の点 $\mathrm A(\alpha,\alpha ^2),$ $\mathrm B(\beta,\beta ^2)$ $(\alpha \neq \beta )$ における接線をそれぞれ $l_{\mathrm A},$ $l_{\mathrm B}$ とする.
(1)
$l_{\mathrm A}$ の方程式を求め, $l_{\mathrm A}$ の点 $\mathrm A$ を除く部分は $C$ の下方にあることを示せ.
(2)
$l_{\mathrm A},$ $l_{\mathrm B}$ の交点 $\mathrm M$ の座標を求めよ.
(3)
$\dfrac{\alpha +\beta}{2} > \sqrt{\alpha\beta}$ が成り立つことを示せ.

解答例

 こちらを参照.

関数と極限

問題《無理関数を含む不等式とその応用》

 $a,$ $b$ を正の数とする.
(1)
$a < b$ のとき, 不等式 $\sqrt x > \dfrac{\sqrt b-\sqrt a}{b-a}(x-a)+\sqrt a$ を解け.
(2)
$\dfrac{a+b}{2} \geqq \sqrt{ab}$ が成り立つことを示し, 等号成立条件を求めよ.

解答例

 こちらを参照.

微分法 (理系)

問題《指数関数の近似とその応用》

 $n$ を $2$ 以上の整数とする.
(1)
すべての実数 $x$ に対して $x \leqq e^{x-1}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(2)
正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ が $x_1+\cdots +x_n = n$ を満たすとする. このとき, $x_1\cdots x_n \leqq 1$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(3)
正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して, $a = \dfrac{x_1+\cdots +x_n}{n}$ とおく. このとき, \[ x_1\cdots x_n \leqq a^n\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(参考: $2007$ 横浜市立大)

解答例

 こちらを参照.

問題《関数の増減と相加・相乗平均の不等式》

 $n$ を正の整数とする.
(1)
$s,$ $p$ を正の数とする. 関数 \[ f(x) = \frac{s+x}{n+1}-(px)^{\frac{1}{n+1}} \quad (x > 0)\] の最小値を求めよ.
(2)
正の数 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n$ に対して \[\frac{a_1+\cdots +a_n}{n} \geqq (a_1\cdots a_n)^{\frac{1}{n}} \quad \cdots [\ast ]\] が成り立つことを数学的帰納法で示せ.

解答例

 こちらを参照.

問題《ヤングの不等式とその応用》

(1)
$0 < r < 1$ とする. $x > 0$ のとき, $r(x-1),$ $x^r-1$ の大小を比較せよ.
(2)
$p,$ $q > 1,$ $\dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q} = 1$ とする. $a,$ $b > 0$ のとき, $\dfrac{a}{p}+\dfrac{b}{q},$ $a^{\frac{1}{p}}b^{\frac{1}{q}}$ の大小を比較せよ.
(3)
$n$ を $2$ 以上の整数とする. $n$ 個の正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して, $A_n = \dfrac{x_1+\cdots +x_n}{n},$ $G_n = (x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}}$ とおくと, \[ A_{k+1} = \frac{kA_k+x_{k+1}}{k+1}, \quad G_{k+1} = G_k{}^{\frac{k}{k+1}}x_{k+1}{}^{\frac{1}{k+1}}\] が成り立つ. このことと (2) の結果を使って, \[ A_n \geqq G_n\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(参考: $2019$ 九州歯科大, $2017$ 一橋大)

解答例

 こちらを参照.

問題《ベルヌーイの不等式の一般化とその応用》

 $n$ を $2$ 以上の整数とする.
(1)
$r < 0$ とする. \[ (1+x)^r \geqq 1+rx \quad (x > -1) \quad \cdots [1]\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(2)
$a_1\cdots a_n = 1$ なる正の数 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n$ に対して \[ a_1+\cdots +a_n \geqq n \quad \cdots [2]\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(3)
正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[ x_1+\cdots +x_n \geqq n(x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}} \quad \cdots [3]\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.

解答例

 こちらを参照.