有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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不等式の証明

相加・相乗平均の不等式

 不等式 $A \geqq B$ を示すには, $A-B \geqq 0$ を示すことがしばしば有効である.

問題《$2$~$4$ 変数の相加・相乗平均の不等式》

(1)
$x,$ $y > 0$ のとき, $x+y \geqq 2\sqrt{xy}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(2)
$x,$ $y,$ $z,$ $w > 0$ のとき, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(3)
(2) において, $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすることにより, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(4)
$\triangle\mathrm{ABC}$ において $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $s = \dfrac{a+b+c}{2}$ とおくとき「ヘロンの公式」 \[\triangle\mathrm{ABC} = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\] (こちらを参照)が成り立つことを使って, 周の長さが一定の三角形のうち面積が最大のものは正三角形であることを示せ.

解答例

(1)
\[ (x+y)-2\sqrt{xy} = (\sqrt x-\sqrt y)^2 \geqq 0\] から, $x+y \geqq 2\sqrt{xy}$ である. 等号成立は, $\sqrt x = \sqrt y$ つまり $x = y$ の場合に限る.
(2)
(1) の不等式から \[\begin{aligned} \frac{x+y+z+w}{4} &= \frac{\dfrac{x+y}{2}+\dfrac{z+w}{2}}{2} \geqq \frac{\sqrt{xy}+\sqrt{zw}}{2} \\ &\geqq \sqrt{\sqrt{xy}\sqrt{zw}} \\ &= \sqrt[4]{xyzw} \end{aligned}\] であるので, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つ. 等号成立は, “ $x = y,$ $z = w,$ $\sqrt{xy} = \sqrt{zw}$ ” つまり $x = y = z = w$ の場合に限る.
(3)
(2) において $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすると, \[\begin{aligned} &3w+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw} \iff w \geqq \sqrt[4]{xyzw} \\ &\iff w^4 \geqq xyzw \iff w^3 \geqq xyz \\ &\iff w \geqq \sqrt[3]{xyz} \iff x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz} \end{aligned}\] となり, 求める不等式が得られる. また, 等号成立は, $x = y = z = w$ つまり $x = y = z$ の場合に限る.
(4)
周の長さが $1$ の三角形について考えれば十分である. この三角形において, $3$ 辺の長さを $a,$ $b,$ $c,$ 面積を $S$ とおく. 「ヘロンの公式」により, \[ S = \sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}-a\right)\left(\frac{1}{2}-b\right)\left(\frac{1}{2}-c\right)}\] が成り立つ. よって, (3) の結果により, \[\begin{aligned} 16S^2 &= (1-2a)(1-2b)(1-2c) \\ &\leqq \left\{\frac{(1-2a)+(1-2b)+(1-2c)}{3}\right\} ^3 \\ &= \left\{\frac{3-2(a+b+c)}{3}\right\} ^3 = \left(\frac{3-2\cdot 1}{3}\right) ^3 \\ &= \frac{1}{27} \end{aligned}\] であり, 等号成立は $1-2a = 1-2b = 1-2c$ つまり $a = b = c$ の場合に限る. ゆえに, $S$ は $a = b = c$ の場合に限り最大になるから, 周の長さが一定の三角形のうち面積が最大のものは正三角形である.

別解(誘導に従わない場合)

(3)
$X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ とおくと \[\begin{aligned} &x+y+z-3\sqrt[3]{xyz} \\ &= X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X+Y+Z)(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X+Y+Z)\cdot\frac{(X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2}{2} \\ &\geqq 0 \end{aligned}\] となるから, 求める不等式が得られる.

注意

 (2) の結果により \[\begin{aligned} 16S^2 &= 1\cdot (1-2a)(1-2b)(1-2c) \\ &\leqq \left\{\frac{1+(1-2a)+(1-2b)+(1-2c)}{4}\right\} ^4 \\ &= \left\{\frac{4-2(a+b+c)}{4}\right\} ^4 = \left(\frac{4-2\cdot 1}{4}\right) ^4 \\ &= \frac{1}{16} \end{aligned}\] となるが, 等号成立条件 $1 = 1-2a = 1-2b = 1-2c$ つまり $a = b = c = 0$ は成り立たない.

参考

  • 一般に, $2$ 以上の整数 $n$ に対して, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n > 0$ のとき, \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1\cdots x_n} \geqq \frac{n}{x_1{}^{-1}+\cdots +x_n{}^{-1}}\] が成り立ち, 等号成立は $x_1 = \cdots = x_n$ の場合に限ることが知られている. 左辺を相加平均(arithmetic mean), 中辺を相乗平均(geometric mean), 右辺を「調和平均」(harmonic mean)と呼ぶ. 証明は, こちらを参照.
  • 周の長さが一定の図形のうち面積が最大の図形を求める問題を「等周問題」(isoperimetric problem)と呼ぶ. 本問は三角形の場合であり, 一般に次の定理が成り立つ: 周の長さが $L$ の $n$ 角形の面積 $S$ について, \[ S \leqq \dfrac{L^2}{4n\tan\dfrac{\pi}{n}}\] が成り立ち, 等号成立は正 $n$ 角形の場合に限る. また, 周の長さが一定の「閉曲線」(両端のつながった切れ目のない曲線)が囲む図形のうち面積が最大の図形は円である.
  • 相加・相乗平均の不等式の別証明については, こちらこちらを参照されたい.
(最終更新日: $2022/05/16$)

問題《四隅までの距離の和の最小値》

 座標平面において, $4$ 点 $\mathrm A(1,1),$ $\mathrm B(-1,1),$ $\mathrm C(-1,-1),$ $\mathrm D(1,-1)$ までの距離の和が最小になるような点の座標を求めよ.

解答例

 $\mathrm P(x,y)$ を平面上の任意の点とする. 相加・相乗平均の不等式により, \[\begin{aligned} &\mathrm{PA}+\mathrm{PB}+\mathrm{PC}+\mathrm{PD} \\ &\geqq 2\sqrt{\mathrm{PA}\cdot\mathrm{PB}}+2\sqrt{\mathrm{PC}\cdot\mathrm{PD}} = 2(\sqrt{\mathrm{PA}\cdot\mathrm{PB}}+\sqrt{\mathrm{PC}\cdot\mathrm{PD}}) \\ &\geqq 2\cdot 2\sqrt{\sqrt{\mathrm{PA}\cdot\mathrm{PB}}\sqrt{\mathrm{PC}\cdot\mathrm{PD}}} = 4\sqrt[4]{\mathrm{PA}\cdot\mathrm{PB}\cdot\mathrm{PC}\cdot\mathrm{PD}} \end{aligned}\] が成り立つ. 等号成立は, $\mathrm{PA} = \mathrm{PB},$ $\mathrm{PC} = \mathrm{PD},$ $\sqrt{\mathrm{PA}\cdot\mathrm{PB}} = \sqrt{\mathrm{PC}\cdot\mathrm{PD}}$ つまり \[\mathrm{PA} = \mathrm{PB} = \mathrm{PC} = \mathrm{PD}\] の場合に限る. この場合, $\mathrm{PA}^2 = \mathrm{PB}^2,$ $\mathrm{PA}^2 = \mathrm{PD}^2$ から \[\begin{aligned} (1-x)^2+(1-y)^2 &= (-1-x)^2+(1-y)^2, \\ (1-x)^2+(1-y)^2 &= (1-x)^2+(-1-y)^2 \end{aligned}\] となり, \[\begin{aligned} 1-2x+x^2 &= 1+2x+x^2, \\ 1-2y+y^2 &= 1+2y+y^2 \end{aligned}\] となって, $-4x = 0,$ $-4y = 0$ から \[ x = y = 0\] となる. よって, $4$ 点 $\mathrm A,$ $\mathrm B,$ $\mathrm C,$ $\mathrm D$ までの距離の和が最小値になる点の座標は $(0,0)$ である.

参考

 実は, $5$ 本の線分を使うと, 正方形 $\mathrm{ABCD}$ の四隅をもっと短くつなぐことができる(こちらを参照). この種の問題は「最小シュタイナー木問題」と呼ばれ, 一般に解を求めるのが困難な問題として有名である.
(最終更新日: $2022/06/16$)

問題《因数分解と $3$ 変数相加・相乗平均の不等式》

(1)
\[\begin{aligned} &X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X+Y+Z)(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \end{aligned}\] が成り立つことを示せ.
(2)
\[\begin{aligned} &2(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2 \end{aligned}\] が成り立つことを示せ.
(3)
$x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ.

解答例

(1)
こちらを参照.
(2)
$a^2-2ab+b^2 = (a-b)^2$ により \[\begin{aligned} &2(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X^2-2XY+Y^2)+(Y^2-2YZ+Z^2) \\ &\qquad +(Z^2-2ZX+X^2) \\ &= (X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2 \end{aligned}\] が得られる.
(3)
$X,$ $Y,$ $Z \geqq 0$ のとき, \[\begin{aligned} &X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X+Y+Z)(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X+Y+Z)\frac{1}{2}\{ (X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2\} \\ &\geqq 0 \end{aligned}\] が成り立つ. この不等式に $X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ を代入すると, 求める不等式が得られる.

問題《並べ替えと相加・相乗平均の不等式》

 次のことを示せ.
(1)
$a \geqq b,$ $c \geqq d$ のとき, $ac+bd \geqq ad+bc$ が成り立つ.
(2)
$X,$ $Y \geqq 0$ のとき, $X^2+Y^2 \geqq 2XY$ が成り立つ.
(3)
$X,$ $Y,$ $Z \geqq 0$ のとき, $X^3+Y^3+Z^3 \geqq 3XYZ$ が成り立つ.
(4)
$x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つ.

解答例

(1)
$a \geqq b,$ $c \geqq d$ から $a-b \geqq 0,$ $c-d \geqq 0$ であるので, \[\begin{aligned} (ac+bd)-(ad+bc) &= a(c-d)-b(c-d) \\ &= (a-b)(c-d) \geqq 0 \end{aligned}\] つまり \[ ac+bd \geqq ad+bc\] が成り立つ.
(2)
$X \geqq Y \geqq 0$ として一般性を失わない. このとき, (1) から, \[ X^2+Y^2 \geqq XY+YX = 2XY\] が成り立つ.
(3)
$X \geqq Y \geqq Z \geqq 0$ として一般性を失わない. このとき, \[\begin{aligned} X^3+Y^3+Z^3 &= X^3+Y^2Y+Z^2Z \\ &\geqq X^3+Y^2Z+Z^2Y \\ &\qquad (\because Y^2 \geqq Z^2,\ Y \geqq Z,\ (1)) \\ &= X^2X+Y^2Z+ZY\cdot Z \\ &\geqq X^2Z+Y^2Z+ZYX \\ &\qquad (\because X^2 \geqq ZY,\ X \geqq Z,\ (1)) \\ &= (X^2+Y^2)Z+XYZ \\ &\geqq 2XYZ+XYZ \quad (\because (2)) \\ &= 3XYZ \end{aligned}\] つまり \[ X^3+Y^3+Z^3 \geqq 3XYZ\] が成り立つ.
(4)
(3) に $X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ を代入すると, \[ x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}\] が得られる.

参考

 これは近年, 内田康晴氏によって発見された並べ替え不等式による相加・相乗平均の不等式 \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1\cdots x_n} \quad (x_1,\ \dots,\ x_n \geqq 0)\] の証明の $n = 3$ の場合である. 一般の $n$ に対しては, 数学的帰納法で同様に証明できる (Y. Uchida, A simple proof of the geometric-arithmetic mean inequality, Pure Appl. Math. 9(2) (2008), 1–2).

問題《和・積の関係と相加・相乗平均の不等式》

 次のことを示せ.
(1)
$a \leqq 1 \leqq b$ のとき \[ a+b \geqq ab+1 \quad \cdots [1]\] が成り立つ.
(2)
$a_1\cdots a_n = 1$ を満たす $n$ 個の正の数 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n$ に対して \[ a_1+\cdots +a_n \geqq n \quad \cdots [2]\] が成り立つ.
(3)
正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[ x_1+\cdots +x_n \geqq n(x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}} \quad \cdots [3]\] が成り立つ.

解答例

(1)
$a \leqq 1 \leqq b$ のとき, \[ (a+b)-(ab+1) \geqq (1-a)(b-1) \geqq 0\] であるから, $[1]$ が成り立つ.
(2)
(i)
$n = 1$ のとき, $[2]$ は明らかに成り立つ.
(ii)
$n = k$ ($k$: 正の整数)のとき, $[2]$ が成り立つとして, $n = k+1$ の場合を考える. $a_k \leqq 1 \leqq a_{k+1}$ としても一般性を失わない. このとき, $[1]$ から, \[\begin{aligned} a_1+\cdots +a_k+a_{k+1} &\geqq a_1+\cdots +a_ka_{k+1}+1 \\ &\geqq k+1 \end{aligned}\] が成り立つ. 第 $2$ の不等号は, $a_1\cdots a_{k-1}(a_ka_{k+1}) = 1$ であることから従う.
(i), (ii) から, すべての正の整数 $n$ に対して $[2]$ が成り立つ.
(3)
$G_n = (x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}},$ $a_k = \dfrac{x_k}{G_n}$ とおくと, $a_1\cdots a_n = 1$ となるから, $[2]$ により, \[\begin{aligned} \frac{x_1}{G_n}+\cdots +\frac{x_n}{G_n} &\geqq n \\ x_1+\cdots +x_n &\geqq nG_n \end{aligned}\] つまり $[3]$ が成り立つ.

参考

 相加・相乗平均の不等式のその他の証明については, こちらも参照されたい.

問題《レームスの不等式とオイラーの不等式》

 $\triangle\mathrm{ABC}$ において, $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $S = \triangle\mathrm{ABC}$ とおき, 外接円の半径を $R,$ 内接円の半径を $r$ とおく.
(1)
不等式 \[ abc \geqq (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)\] が成り立つことを, \[ x = -a+b+c, \quad y = a-b+c, \quad z = a+b-c\] という置き換えを使って示せ.
(2)
不等式 \[ R \geqq 2r\] が成り立つことを示せ. ただし,「ヘロンの公式」 \[ S = \dfrac{1}{4}\sqrt{(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)}\] (こちらを参照)が成り立つことは, 証明なしに使ってよい.

解答例

(1)
$x = -a+b+c,$ $y = a-b+c,$ $z = a+b-c$ とおく. このとき, \[ a = \frac{y+z}{2}, \quad b = \frac{z+x}{2}, \quad c= \frac{x+y}{2}\] となる. $a,$ $b,$ $c$ は三角形の $3$ 辺の長さであるから $x,$ $y,$ $z > 0$ であることに注意すると, 相加・相乗平均の不等式により \[\begin{aligned} abc &= \frac{y+z}{2}\cdot\frac{z+x}{2}\cdot\frac{x+y}{2} \\ &\geqq \sqrt{yz}\sqrt{zx}\sqrt{xy} = xyz \\ &= (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) \quad \cdots [1] \end{aligned}\] が得られる. 等号成立は, $x = y = z$ つまり $a = b = c$ の場合に限る.
(2)
正弦定理により,
$S = \dfrac{1}{2}bc\sin\angle\mathrm A = \dfrac{abc}{4R}$ つまり $abc = 4RS \quad \cdots [2]$
が成り立つ. また,「ヘロンの公式」により, \[ (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) = \frac{16S^2}{a+b+c} \quad \cdots [3]\] が成り立つ. $[2],$ $[3]$ を $[1]$ に代入すると, $S = \dfrac{a+b+c}{2}r$ により, \[ 4RS \geqq \frac{16S^2}{a+b+c} = 16S\cdot\frac{r}{2} = 8rS\] つまり $R \geqq 2r$ が得られる. 等号成立は, $a = b = c$ の場合に限る.

参考

 (1) の不等式は「レームスの不等式」(Lehmus inequality, 別証明はこちらを参照), (2) の不等式は「オイラーの不等式」(Euler's inequality)として知られている. 「オイラーの不等式」は, 三角形の外心と内心の距離に関する「チャップル=オイラーの定理」(Chapple–Euler theorem, こちらを参照)に一般化される.
(最終更新日: $2022/05/16$)

コーシー=シュワルツの不等式

問題《ある恒等式とコーシー=シュワルツの不等式》

 $n$ を $2$ 以上の整数, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n,$ $y_1,$ $\cdots,$ $y_n$ を実数とする. 「ラグランジュの恒等式」 \[\left(\sum_{k = 1}^nx_k{}^2\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k{}^2\right) = \left(\sum_{k = 1}^nx_ky_k\right) ^2+\sum_{k = 1}^{n-1}\sum_{l = k+1}^n(x_ky_l-x_ly_k)^2\] (こちらを参照)を使って, 不等式 \[\left(\sum_{k = 1}^nx_k{}^2\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k{}^2\right) \geqq \left(\sum_{k = 1}^nx_ky_k\right) ^2\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.

解答例

 「ラグランジュの恒等式」 \[\left(\sum_{k = 1}^nx_k{}^2\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k{}^2\right) = \left(\sum_{k = 1}^nx_ky_k\right) ^2+\sum_{k = 1}^{n-1}\sum_{l = k+1}^n(x_ky_l-x_ly_k)^2\] において $(x_ky_l-x_ly_k)^2 \geqq 0$ ($1 \leqq k \leqq n-1,$ $k+1 \leqq l \leqq n$)であるから, \[\left(\sum_{k = 1}^nx_k{}^2\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k{}^2\right) \geqq \left(\sum_{k = 1}^nx_ky_k\right) ^2\] が成り立つ. 等号成立は \[ x_ky_l = x_ly_k \quad (1 \leqq k \leqq n-1,\ k+1 \leqq l \leqq n) \quad \cdots [1]\] の場合に限る.
 この条件のもとで, $(x_1,\cdots,x_n),$ $(y_1,\cdots,y_n) \neq (0,\cdots,0)$ であるとする. このとき, ある番号 $k,$ $l$ について $x_k,$ $y_l \neq 0$ となる. $x_ly_k = x_ky_l \neq 0$ から, $y_k \neq 0$ であることに注意する. $t = \dfrac{y_k}{x_k}$ とおく.
(i)
$j = k$ のとき. $y_j = tx_j$ となる.
(ii)
$j \neq k,$ $x_jy_k = x_ky_j \neq 0$ のとき. $x_j \neq 0,$ $\dfrac{y_j}{x_j} = \dfrac{y_k}{x_k} = t$ から $y_j = tx_j$ となる.
(iii)
$j \neq k,$ $x_jy_k = x_ky_j = 0$ のとき. $x_jy_k = 0,$ $y_k \neq 0$ から $x_j = 0$ となり, $x_ky_j = 0,$ $x_k \neq 0$ から $y_j = 0$ となるので, $y_j = tx_j$ となる.
(i)~(iii) から, \[ (y_1,\cdots,y_n) = (tx_1,\cdots,tx_n) \quad (t\text{: 実数}) \quad \cdots [2]\] となる. $t = 0$ とすると, これは $(y_1,\cdots,y_n) = (0,\cdots,0)$ のときも成り立つ.
 明らかに $[2] \Longrightarrow [1]$ も成り立つから, 等号成立は \[\begin{aligned} (x_1,\cdots,x_n) &= (0,\cdots,0) \quad\text{または} \\ (y_1,\cdots,y_n) &= (tx_1,\cdots,tx_n) \quad (t\text{: 実数}) \end{aligned}\] の場合に限る.

参考

  • 本問で示した不等式は「コーシー=シュワルツの不等式」(Cauchy–Schwarz inequality)と呼ばれる.
  • 別証明については, こちらを参照されたい.
(最終更新日: $2022/05/21$)

三角不等式

 $A \geqq 0,$ $B \geqq 0$ であるとき, 不等式 $A \geqq B$ を示すには, $A^2 \geqq B^2$ を示すことがしばしば有効である.

問題《三角不等式とマンハッタン距離》

 次のことを示せ.
(1)
すべての実数 $x,$ $y$ に対して, $|x|+|y| \geqq |x+y|$ が成り立つ.
(2)
平面上の $2$ 点 $\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y')$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P') = |x'-x|+|y'-y|\] と定める. このとき, $3$ 点 $\mathrm P,$ $\mathrm P',$ $\mathrm P''$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')\] が成り立つ.

解答例

(1)
\[\begin{aligned} &(|x|+|y|)^2-|x+y|^2 \\ &= (|x|^2+2|x||y|+|y|^2)-(x+y)^2 \\ &= (x^2+2|xy|+y^2)-(x^2+2xy+y^2) \\ &= 2(|xy|-xy) \geqq 0 \end{aligned}\] から $(|x|+|y|)^2 \geqq |x+y|^2$ であるので, $|x|+|y| \geqq 0,$ $|x+y| \geqq 0$ に注意すると \[ |x|+|y| \geqq |x+y|\] が得られる.
(2)
$\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y'),$ $\mathrm P''(x'',y'')$ とおく. このとき, (1) で示した不等式により, \[\begin{aligned} &d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \\ &= (|x'-x|+|y'-y|)+(|x''-x'|+|y''-y'|) \\ &= (|x''-x'|+|x'-x|)+(|y''-y'|+|y'-y|) \\ &\geqq |(x''-x')+(x'-x)|+|(y''-y')+(y'-y)| \\ &= |x''-x|+|y''-y| \\ &= d(\mathrm P,\mathrm P'') \end{aligned}\] が成り立つ.

参考

  • 不等式 $|x|+|y| \geqq |x+y|$ は「三角不等式」(triangle inequality)と呼ばれる.
  • 平面上の $2$ 点 $\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y')$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P') = |x'-x|+|y'-y|\] を $\mathrm P,$ $\mathrm P'$ の「マンハッタン距離」(Manhattan distance)と呼ぶ. この概念は, 碁盤目状に道路が整備された街で $2$ 点がどれだけ離れているかを考える際に有効である. 例えば, 点 $\mathrm A(3,4)$ は原点を中心とする半径 $5$ の円周上にあり, 点 $\mathrm B(1,5)$ はその円の外側にあるが, 原点と点 $\mathrm A$ の「マンハッタン距離」は $3+4 = 7,$ 原点と点 $\mathrm B$ の「マンハッタン距離」は $1+5 = 6$ であり, 「マンハッタン距離」では点 $\mathrm A$ よりも点 $\mathrm B$ の方が原点に近い. 我々が日常的に距離と呼んでいる「ユークリッド距離」(Euclidean distance)と「マンハッタン距離」は, 次の共通の性質をもつ.
    (D1)
    $d(\mathrm P,\mathrm P') \geqq 0$ であり, $d(\mathrm P,\mathrm P') = 0$ $\iff$ $\mathrm P = \mathrm P'$ が成り立つ.
    (D2)
    $d(\mathrm P,\mathrm P') = d(\mathrm P',\mathrm P)$ が成り立つ.
    (D3)
    $d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')$ が成り立つ.
    「位相空間論」(general topology)では, これらの性質をもつ実数値関数はすべて「距離関数」(distance function)と呼ばれ, その理論が体系的にまとめられている.
(最終更新日: $2022/05/16$)

問題《三角不等式と高次方程式の解の評価》

 $a_0,$ $a_1,$ $\cdots,$ $a_{n-1}$ $(n \geqq 1)$ を実数とし, それらの絶対値の最大値を $M$ とおく. 方程式 \[ x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 = 0\] の実数解 $\alpha$ $(\neq 0)$ が存在するとき, $|\alpha | \leqq M+1$ が成り立つことを, 前問で示した不等式 $|x+y| \leqq |x|+|y|$ を使って, 背理法で示せ.

解答例

 $x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 = 0$ が実数解 $\alpha$ $(\neq 0)$ をもつとする. このとき, \[\begin{aligned} \alpha ^n+a_{n-1}\alpha ^{n-1}+\cdots +a_1\alpha +a_0 &= 0 \\ \alpha +a_{n-1}+\cdots +\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}+\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}} &= 0 \quad \cdots [1] \end{aligned}\] が成り立つ.
 仮に $|\alpha | > M+1$ が成り立つとすると, \[\frac{1}{|\alpha |} < \frac{1}{M+1} \quad \cdots [2]\] となるから, \[\begin{aligned} |\alpha | &= \left| a_{n-1}+\cdots +\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}+\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}}\right| \quad (\because [1]) \\ &\leqq |a_{n-1}|+\cdots +\left|\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}\right| +\left|\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}}\right| \\ &= |a_{n-1}|+\cdots +\frac{|a_1|}{|\alpha |^{n-2}}+\frac{|a_0|}{|\alpha |^{n-1}} \\ &\leqq M\left( 1+\cdots +\frac{1}{|\alpha |^{n-2}}+\frac{1}{|\alpha |^{n-1}}\right) \quad (\because |a_k| \leqq M) \\ &< M\left\{ 1+\cdots +\frac{1}{(M+1)^{n-2}}+\frac{1}{(M+1)^{n-1}}\right\} \quad (\because [2]) \\ &= M\cdot\!\frac{1-\left(\dfrac{1}{M+1}\right) ^n}{1-\dfrac{1}{M+1}} = M\cdot\frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^n-(M+1)^{n-1}} \\ &= M\cdot\frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^{n-1}(M+1-1)} = \frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^{n-1}} \\ &< \frac{(M+1)^n}{(M+1)^{n-1}} = M+1 \end{aligned}\] となって, 矛盾が生じる.
 ゆえに, $|\alpha | \leqq M+1$ が成り立つ.

参考

 高次方程式の解の評価については「エネストレーム=掛谷の定理」(こちらを参照)が有名である.
(最終更新日: $2022/05/16$)

いろいろな不等式

問題《$2$ 乗平均平方根と相加平均の関係》

 $n$ を $2$ 以上の整数, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ を正の数とし, \[ r = \sqrt{\frac{x_1{}^2+\cdots +x_n{}^2}{n}}, \quad m = \frac{x_1+\cdots +x_n}{n}\] とおく. \[\frac{(x_1-m)^2+\cdots +(x_n-m)^2}{n} = r^2-m^2\] を示すことで, \[ r \geqq m\] が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.

解答例

\[\begin{aligned} \frac{1}{n}\sum_{k = 1}^n(x_k-m)^2 &= \frac{1}{n}\sum_{k = 1}^n(x_k{}^2-2mx_k+m^2) \\ &= \frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k{}^2-2m\cdot\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k+\frac{1}{n}\cdot nm^2 \\ &= r^2-2m\cdot m+m^2 = r^2-m^2 \end{aligned}\] であるから, \[ r^2-m^2 = \frac{1}{n}\sum_{k = 1}^n(x_k-m)^2 \geqq 0\] が成り立つ. ゆえに, $r^2 \geqq m^2$ つまり \[ r \geqq m\] が成り立つ. 等号成立は, $x_1-m = \cdots = x_n-m = 0$ つまり \[ x_1 = \cdots = x_n\] の場合に限る.

参考

  • $\sqrt{\dfrac{x_1{}^2+\cdots +x_n{}^2}{n}}$ は $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の 「$2$ 乗平均平方根」と呼ばれ, 統計学, 物理学, 工学で重要な応用をもつ.
  • $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の「$2$ 乗平均平方根」, 相加平均, 相乗平均,「調和平均」は,「一般化平均」または「ヘルダー平均」と呼ばれる代表値 \[ M_p(x_1,\cdots,x_n) = \left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k{}^p\right) ^{\frac{1}{p}}\] ($p$: 実数)の特別な場合, つまり $p = 2,$ $1,$ $0,$ $-1$ の場合である($p = 0$ の場合は $p \to 0$ のときの極限とみなすと相乗平均になる). 一般に, $p > q$ のとき \[ M_p(x_1,\cdots,x_n) \geqq M_q(x_1,\cdots,x_n)\] の成り立つことが知られている.
(最終更新日: $2022/05/16$)

問題《アルキメデスの開平法》

 正の整数 $a,$ $b$ が $b < 2a-1$ を満たすとき, \[ a^2-b > a^2-(2a-1) = (a-1)^2 \geqq 0\] である. このとき, \[ a-\frac{b}{2a-1} < \sqrt{a^2-b} < a-\frac{b}{2a}\] が成り立つことを示せ.

解答例

  • $2a\sqrt{a^2-b} > 0$ であるから, $\sqrt{a^2-b} < a-\dfrac{b}{2a}$ つまり $2a\sqrt{a^2-b} < 2a^2-b$ を示すには, $4a^2(a^2-b) < (2a^2-b)^2$ を示せばよい. これは, \[\begin{aligned} &(2a^2-b)^2-4a^2(a^2-b) \\ &= (4a^4-4a^2b+b^2)-(4a^4-4a^2b) \\ &= b^2 > 0 \end{aligned}\] から成り立つ.
  • $(2a-1)a-b > ba-b = b(a-1) \geqq 0$ であるから, $a-\dfrac{b}{2a-1} < \sqrt{a^2-b}$ つまり $(2a-1)a-b < (2a-1)\sqrt{a^2-b}$ を示すには, $\{ (2a-1)a-b\} ^2 < (2a-1)^2(a^2-b)$ を示せばよい. これは, \[\begin{aligned} &(2a-1)^2(a^2-b)-\{ (2a-1)a-b\} ^2 \\ &= (2a-1)^2(a^2-b)-(2a-1)^2a^2+2(2a-1)ab-b^2 \\ &= -4a^2b+4ab-b+4a^2b-2ab-b^2 \\ &= 2ab-b-b^2 \\ &= b(2a-1-b) > 0 \end{aligned}\] から成り立つ.

参考

  • アルキメデスは $a,$ $b > 0,$ $b < 2a\pm 1$ のとき \[ a\pm\frac{b}{2a\pm 1} < \sqrt{a^2\pm b} < a\pm\frac{b}{2a}\] (複号同順)が成り立つことを使って, 平方根の近似値を求めていたと考えられている.
  • 例えば, $\sqrt 3$ の近似値は, 次のように求めることができる. $3 = 2^2-1$ から, \[\frac{5}{3} = 2-\frac{1}{2\cdot 2-1} < \sqrt 3 < 2-\frac{1}{2\cdot 2} = \frac{7}{4}\] よって $\dfrac{20}{3} < 4\sqrt 3 < 7$ が成り立つ. したがって, $4\sqrt 3 = \sqrt{48}$ に最も近い整数は $7$ であることが見出せる. $48 = 7^2-1$ から, \[\frac{90}{13} = 7-\frac{1}{2\cdot 7-1} < 4\sqrt 3 < 7-\frac{1}{2\cdot 7} = \frac{97}{14}\] よって $\dfrac{1260}{13} < 56\sqrt 3 < 97$ が成り立つ. したがって, $56\sqrt 3 = \sqrt{9408}$ に最も近い整数は $97$ であるであることが見出せる. $9408 = 97^2-1$ から, \[\frac{18720}{193} = 97-\frac{1}{2\cdot 97-1} < 56\sqrt 3 < 97-\frac{1}{2\cdot 97} = \frac{18817}{194}\] よって $\dfrac{2340}{1351} < \sqrt 3 < \dfrac{18817}{10864}$ が成り立つ. \[\frac{2340}{1351} = 1.7320503\cdots, \quad \frac{18817}{10864} = 1.7320508\cdots\] であるから, $\sqrt 3$ の近似値を小数第 $6$ 位まで求めることができた.
(最終更新日: $2022/05/16$)

問題《シューアの不等式》

 すべての実数 $r$ に対して, $x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき \[\begin{aligned} x^r(x-y)(x-z)&+y^r(y-z)(y-x) \\ &+z^r(z-x)(z-y) \geqq 0 \quad \cdots [*] \end{aligned}\] が成り立つことを, 次の場合に分けて示せ.
(i)
$r \geqq 0$ のとき.
(ii)
$r < 0$ のとき.

解答例

 $x,$ $y,$ $z \geqq 0$ を仮定する. $[\ast ]$ の左辺は $x,$ $y,$ $z$ に関して対称であることから $x \geqq y \geqq z$ としても一般性を失わないので, その場合を考える.
(i)
$r \geqq 0$ のとき. $z^r \geqq 0,$ $z-x \leqq 0,$ $z-y \leqq 0$ から, \[ z^r(z-x)(z-y) \geqq 0 \quad \cdots [1]\] が成り立つ. また, $x^r \geqq y^r \,(\geqq 0),$ $x-z \geqq y-z \,(\geqq 0)$ から \[\begin{aligned} &x^r(x-z) \geqq y^r(y-z) \\ &x^r(x-z)-y^r(y-z) \geqq 0 \end{aligned}\] であり, $x-y \geqq 0$ であるので, \[\begin{aligned} &x^r(x-y)(x-z)+y^r(y-z)(y-x) \\ &= (x-y)\{ x^r(x-z)-y^r(y-z)\} \geqq 0 \quad \cdots [2] \end{aligned}\] が成り立つ. $[1],$ $[2]$ の辺々を加えると, $[\ast ]$ が得られる.
(ii)
$r < 0$ のとき. $x^r \geqq 0,$ $x-y \geqq 0,$ $x-z \geqq 0$ から, \[ x^r(x-y)(x-z) \geqq 0 \quad \cdots [3]\] が成り立つ. また, $z^r \geqq y^r \,(\geqq 0),$ $x-z \geqq x-y \,(\geqq 0)$ から \[\begin{aligned} &z^r(x-z) \geqq y^r(x-y) \\ &z^r(x-z)-y^r(x-y) \geqq 0 \end{aligned}\] であり, $y-z \geqq 0$ であるので, \[\begin{aligned} &y^r(y-z)(y-x)+z^r(z-x)(z-y) \\ &= (y-z)\{ z^r(x-z)-y^r(x-y)\} \geqq 0 \quad \cdots [4] \end{aligned}\] が成り立つ. $[3],$ $[4]$ の辺々を加えると, $[\ast ]$ が得られる.
(i), (ii) から, すべての場合に $[\ast ]$ が成り立つ.

参考

  • 本問で示した不等式は「シューアの不等式」(Schur's inequality)として知られている.
  • $3$ 辺の長さが $a,$ $b,$ $c$ の三角形について, \[\begin{aligned} &abc-(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) \\ &= a(a-b)(a-c)+b(b-c)(b-a)+c(c-a)(c-b) \\ &\geqq 0 \end{aligned}\] であるから,「レームスの不等式」(Lehmus inequality) \[ abc \geqq (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)\] が成り立つ(こちらを参照).
(最終更新日: $2022/05/16$)

問題《チェビシェフの和の不等式》

 $x_1 \geqq \cdots \geqq x_n,$ $y_1 \geqq \cdots \geqq y_n$ のとき, 不等式 \[\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq \left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^ny_k\right)\] が成り立つことを示せ.
(参考: $1992$ 東北大)

解答例

 $x_1 \geqq \cdots \geqq x_n,$ $y_1 \geqq \cdots \geqq y_n$ のとき, $x_k-x_l,$ $y_k-y_l$ は同符号であるから \[\begin{aligned} 0 &\leqq \sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^n(x_k-x_l)(y_k-y_l) \quad \cdots [1] \\ &= \sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^n(x_ky_k-x_ky_l-x_ly_k+x_ly_l) \\ &= \sum_{k = 1}^n\left( nx_ky_k-x_k\sum_{l = 1}^ny_l-y_k\sum_{l = 1}^nx_l+\sum_{l = 1}^nx_ly_l\right) \\ &= n\sum_{k = 1}^nx_ky_k-\sum_{k = 1}^nx_k\sum_{l = 1}^ny_l-\sum_{k = 1}^ny_k\sum_{l = 1}^nx_l+n\sum_{l = 1}^nx_ly_l \\ &= 2n\sum_{k = 1}^nx_ky_k-2\left(\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k\right) \end{aligned}\] つまり \[ 2n\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq 2\left(\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k\right)\] が成り立ち, 両辺を $2n^2$ で割ると \[\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq \left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^ny_k\right)\] が得られる.

参考

  • 本問の不等式は, $x_1 \geqq \cdots \geqq x_n,$ $y_1 \geqq \cdots \geqq y_n,$ $\{\sigma (1),\cdots,\sigma (n)\} = \{ 1,\cdots,n\}$ のときに成り立つ「並べ替え不等式」 \[\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq \sum_{k = 1}^nx_ky_{\sigma (k)}\] において $\sigma (k) = k+l-1$ ($l$: $1 \leqq l \leqq n$ なる整数, $k+l-1 > n$ のとき $y_{k+l-1} = y_{k+l-1-n}$ とおく)として得られる $n$ 個の不等式について辺々の和をとり, 両辺を $n^2$ で割ることでも証明できる.
  • これは, \[\begin{aligned} \frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_ky_k \leqq \left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^ny_k\right) \\ (x_1 \geqq \cdots \geqq x_n,\ y_1 \leqq \cdots \leqq y_n) \end{aligned}\] (証明は同様)とあわせて, 「チェビシェフの和の不等式」(Chebyshev's sum inequality)として知られている.
(最終更新日: $2022/05/16$)