有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

数式を枠からはみ出さずに表示するためには, 画面を横に傾けてください.

ペル方程式

 YouTube で解説動画 を公開中.

ペル方程式

定義《ペル方程式》

 $d$ を平方数でない正の整数とする.
$x^2-dy^2 = 1$ または $x^2-dy^2 = -1$
の形の不定方程式を ペル方程式 (Pell's equation) と呼ぶ. $(\pm 1,0)$ を $x^2-dy^2 = 1$ の自明解 (trivial solution) と呼ぶ.

注意

  • $d$ が平方数のとき, 整数の範囲で \[ x^2-dy^2 = (x+y\sqrt d)(x-y\sqrt d)\] と因数分解でき, 積が $\pm 1$ であるような整数は $1$ と $-1$ に限るから, $x^2-dy^2 = 1$ の整数解は $(x,y) = (\pm 1,0)$ に限り, $x^2-dy^2 = -1$ の整数解が存在するのは $d = 1$ の場合に限ることがわかる. これは $d$ が平方数でないときの解の様子とまったく異なるので, $d$ が平方数の場合は除外して考える.
  • オイラーは, 不定方程式 $x^2-dy^2 = 1$ を研究したのはペルであると誤解して, これをペル方程式と名付けた. ペルとこの不定方程式の関係は, 弟子のラーンが本でウォリスとブラウンカーの解法を紹介したということ以外はないようである.

ポジティブなペル方程式の解の存在

定理《ペル方程式の解の存在》

 $d$ を平方数でない正の整数とする. このとき, $x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解が存在する.

補題《ディリクレのディオファントス近似定理》

 $\omega$ を無理数とする. このとき, \[ |x-y\omega | < \frac{1}{y}\] を満たす整数 $x,$ $y$ $(y > 0)$ の組が無数に存在する.

補題の証明

 まず, すべての正の整数 $n$ に対して, \[ |x-y\omega | < \frac{1}{n}, \quad 0 < y \leqq n\] を満たす整数の $x,$ $y$ の組が少なくとも $1$ つ存在することを示す. $0 \leqq k \leqq n$ なる $n+1$ 個の整数 $k$ に対して \[ 0 \leqq k\omega -[k\omega ] < 1\] が成り立つから ($[\ \ ]$ はガウス記号), 鳩の巣原理により, 半開区間 $[0,1)$ を $n$ 等分してできる $n$ 個の半開区間 \[\left[ 0,\frac{1}{n}\right),\ \cdots,\ \left[\frac{n-1}{n},1\right)\] の中に, 相異なる複数個の $k\omega -[k\omega ]$ の値を含む半開区間が少なくとも $1$ つ存在する. よって, $0$ 以上 $n$ 以下の整数 $k_1,$ $k_2$ $(k_1 < k_2)$ で \[\begin{aligned} &|([k_2\omega ]-[k_1\omega ])-(k_2-k_1)\omega | \\ &= |(k_2\omega -[k_2\omega ])-(k_1\omega -[k_1\omega ])| < \frac{1}{n} \end{aligned}\] を満たすものが存在する. 整数 $x = [k_2\omega ]-[k_1\omega ],$ $y = k_2-k_1$ の組は上記の条件を満たす.
 次に, 補題の主張を示す. 上記の結果により, $|x_1-y_1\omega | < 1$ を満たす整数 $x_1,$ $y_1$ $(0 < y_1 \leqq 1)$ が存在するから, $\omega$ の無理性により $0 < |x_1-y_1\omega |$ であることに注意して $\dfrac{1}{n_2} < |x_1-y_1\omega |$ を満たす正の整数 $n_2$ をとると, $|x_2-y_2\omega | < \dfrac{1}{n_2}$ を満たす整数 $x_2,$ $y_2$ $(0 < y_2 \leqq n_2)$ が存在する. これを繰り返すと, \[ |x_{k+1}-y_{k+1}\omega | < \frac{1}{n_{k+1}} < |x_k-y_k\omega | < \frac{1}{n_k}\] を満たす無限数列 $\{ x_k\},$ $\{ y_k\},$ $\{ n_k\}$ $(0 < y_k \leqq n_k)$ が得られる. \[ |x_k-y_k\omega | < \frac{1}{n_k} \leqq \dfrac{1}{y_k}\] であるから, \[ |x-y\omega | < \frac{1}{y}\] を満たす整数 $x,$ $y$ $(y > 0)$ の組が無数に存在する.

定理の証明

 補題 (ディリクレのディオファントス近似定理) により, \[ |x-y\sqrt d| < \frac{1}{y}\] を満たす整数 $x,$ $y$ $(y > 0)$ の組が無数に存在する. ここで, $\sqrt d > 1$ であるから, $x > 0$ である. $x-y\sqrt d < \dfrac{1}{y}$ から \[ x+y\sqrt d < \frac{1}{y}+2y\sqrt d\] であるので, 辺々を掛けると \[ |x^2-dy^2| < \frac{1}{y^2}+2\sqrt d \leqq 1+2\sqrt d\] が得られる. 無数の $x^2-dy^2$ の値が区間 $(-1-2\sqrt d,1+2\sqrt d)$ に含まれ, この区間には有限個の整数しかないから, 鳩の巣原理により, 少なくとも $1$ つの整数 $m$ に対して \[ x^2-dy^2 = m\] は無数の正の整数解をもつ. $d$ は平方数でないから, $m \neq 0$ である.
(i)
$m = 1$ のとき. これ以上示すべきことはない.
(ii)
$m = -1$ のとき. $x^2-dy^2 = -1$ の整数解 $(x,y) = (x_1,y_1)$ に対して \[ (x,y) = (x_1{}^2+dy_1{}^2,2x_1y_1)\] は $x^2-dy^2 = 1$ の解になるから, $x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解が存在する.
(iii)
$|m| > 1$ のとき. $x,$ $y$ を $m$ で割った余りの組によって $x^2-dy^2 = m$ の正の整数解全体を $m^2$ 個の集合に分けると, 鳩の巣原理により, 少なくとも $2$ 個の解を含む集合が少なくとも $1$ つ存在する. 相異なる解 $(x_1,y_1),$ $(x_2,y_2)$ が同じ集合に属するとすると, \[\begin{aligned} x_2-x_1 &= mp \quad \cdots [1], \\ y_2-y_1 &= mq \quad \cdots [2] \end{aligned}\] を満たす整数 $p,$ $q$ が存在する. $[1]\times (-y_1)+[2]\times x_1$ から \[ x_1y_2-y_1x_2 = m(qx_1-py_1)\] であることに注意すると, \[\begin{aligned} m^2 &= (x_1{}^2-dy_1{}^2)(x_2{}^2-dy_2{}^2) \\ &= (x_1{}^2x_2{}^2-2dx_1y_1x_2y_2+d^2y_1{}^2y_2{}^2) \\ &\quad -d(x_1{}^2y_2{}^2-2x_1y_1x_2y_2+y_1{}^2x_2{}^2) \\ &= (x_1x_2-dy_1y_2)^2-d(x_1y_2-y_1x_2)^2 \\ &= (x_1x_2-dy_1y_2)^2-dm^2(qx_1-py_1)^2 \end{aligned}\] が得られる. ここで, $(x_1x_2-dy_1y_2)^2$ は $m^2$ で割り切れるから, $|x_1x_2-dy_1y_2|$ は $m$ で割り切れる. $|x_1x_2-dy_1y_2|$ を $m$ で割った商を $x$ とおき, $y = |qx_1-py_1|$ とおくと, \[ m^2x^2-dm^2y^2 = m^2\] となるから, \[ x^2-dy^2 = 1\] となる. ここで, $x > 0$ である. また, $x^2-dy^2 = m$ の解 $(x,y) = (x_1,y_1)$ について $(x,y) = (kx_1,ky_1)$ $(k \neq \pm 1)$ が $x^2-dy^2 = m$ の解になることはないから, $x_1y_2 \neq y_1x_2,$ よって $y = |qx_1-py_1| > 0$ である.
(i)~(iii) から, $x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解が存在する.

ネガティブなペル方程式の解の有無

定理《ネガティブなペル方程式の解の存在の必要条件》

 $d$ を $1$ 以外の平方数で割り切れない正の整数とする. $x^2-dy^2 = -1$ が整数解をもつならば, $d$ は $p \equiv 3 \pmod 4$ なる素因数 $p$ をもたない.

証明

 $x,$ $y$ が $x^2-dy^2 = -1$ を満たすとする. このとき, \[ dy^2 = x^2+1\] は平方数の和になるから, 次のフェルマーの $2$ 平方定理により, $d$ は $p \equiv 3 \pmod 4$ なる素因数 $p$ をもたない: $n$ を正の整数とする. $n = a^2+b^2$ が整数解をもつためには, $n$ の素因数分解において $p \equiv 3 \pmod 4$ なる素数 $p$ の指数がすべて偶数であることが必要十分である.

定理《ネガティブなペル方程式の解の存在の十分条件》

 次の各場合に, $x^2-dy^2 = −1$ は整数解をもつ.
(A)
$d = k^2+1$ ($k$: 正の整数).
(B)
$d = p,$ $p \equiv 1 \pmod 4$ ($p$: 素数).
(C)
$d = 2p,$ $p \equiv 5 \pmod 8$ ($p$: 素数).

証明

(A)
正の整数 $k$ に対して, \[ k^2-(k^2+1)\cdot 1^2 = -1\] であるから, $x^2-(k^2+1)y^2 = -1$ は整数解 $(x,y) = (k,1)$ をもつ.
(B)
$p$ を $p \equiv 1 \pmod 4$ なる素数とする. $x^2-py^2 = 1$ は非自明な整数解をもつから, $|x^2-py^2| = 1$ は正の整数解をもつ.
そのうち $x+y\sqrt p$ の値が $1$ より大きい範囲で最小であるもの $(x,y) = (x_1,y_1)$ が $x_1{}^2-py_1{}^2 = 1$ を満たすとして, 矛盾を導く. 偶数の平方を $4$ で割った余りは $0,$ 奇数の平方を $4$ で割った余りは $1$ であることに注意すると, \[ x_1{}^2-1 = py_1{}^2\] を $4$ で割った余りは $0$ か $1$ であるから, $x_1$ は奇数, $y_1$ は偶数でなければならない. そこで, 両辺を $4$ で割ると, \[\frac{x_1+1}{2}\cdot\frac{x_1-1}{2}= p\left(\frac{y_1}{2}\right) ^2\] が得られる. $p$ は素数であるから, 素因数分解の一意性により, ある正の整数 $\xi,$ $\eta$ に対して \[\left\{\frac{x_1+1}{2},\frac{x_1-1}{2}\right\} = \{\xi ^2,p\eta ^2\}\] が成り立つ. よって, \[ |\xi ^2-p\eta ^2| = \frac{x_1+1}{2}-\frac{x_1-1}{2} = 1\] が成り立つ. また, $x_1{}^2-py_1{}^2 = 1,$ $x_1{}^2-1 = 4p\xi ^2\eta ^2$ であり, $\xi \geqq 1$ から $x_1 = 2\xi ^2\pm 1 \geqq \xi$ であるので, \[ x_1+y_1\sqrt p = x_1+\sqrt{x_1{}^2-1} = x_1+2\xi\eta\sqrt p > \xi +\eta\sqrt p > 1\] が成り立つ. これは $x_1+y_1\sqrt p$ の最小性に反する.
ゆえに, $x_1{}^2-py_1{}^2 = -1$ が成り立つ.
(C)
$p$ を $p \equiv 5 \pmod 8$ なる素数とする. 偶数の平方を $8$ で割った余りは $0$ か $4,$ 奇数の平方を $8$ で割った余りは $1$ であることに注意すると, $x^2-2py^2 = 1$ の解 $(x_1,y_1)$ について, \[ x_1{}^2-1 = 2py_1{}^2\] を $8$ で割った余りは $0$ か $2$ であるから, $x_1$ は奇数, $y_1$ は偶数でなければならない. よって, \[\frac{x_1+1}{2}\cdot\frac{x_1-1}{2}= 2p\left(\frac{y_1}{2}\right) ^2\] から, ある正の整数 $\xi,$ $\eta$ に対して \[\left\{\frac{x_1+1}{2},\frac{x_1-1}{2}\right\} = \{\xi ^2,2p\eta ^2\},\{ 2\xi ^2,p\eta ^2\}\] となるが, 後者の場合は起こらない.
実際, 後者の場合, \[ 2\xi ^2-p\eta = \pm\left(\frac{x_1+1}{2}-\frac{x_1-1}{2}\right) = \pm 1\] から, $\eta$ は奇数になり, \[ 2\xi ^2-p\eta ^2 \equiv 2\xi ^2+3 \equiv 3,\ 5\pmod 8\] となってしまうからである.
よって, (B) と同様の議論により, 求める主張が示される.

例《ネガティブなペル方程式の解の有無》

 平方因数をもたない $100$ 未満の正の整数 $d$ について, 次の各場合に $x^2-dy^2 = -1$ は整数解をもつ.
(A)
$d = k^2+1$ ($k$: 正の整数) の場合: \[ d = 2,\ 5,\ 10,\ 17,\ 26,\ 37,\ 65,\ 82.\]
(B)
$d = p,$ $p \equiv 1 \pmod 4$ ($p$: 素数) の場合: \[ d = 5,\ 13,\ 17,\ 29,\ 41,\ 53,\ 61,\ 73,\ 89,\ 97.\]
(C)
$d = 2p,$ $p \equiv 5 \pmod 8$ ($p$: 素数) の場合: \[ d = 10,\ 26,\ 58,\ 74.\]
(D)
その他で整数解のある場合: \[ d = 85 \quad (378^2-85\cdot 41^2 = −1).\]
 次の各場合に, $x^2-dy^2 = -1$ は整数解をもたない.
(E)
$d$ が $p \equiv 3 \pmod 4$ なる素因数 $p$ をもつ場合: \[\begin{aligned} d &= 3,\ 6,\ 7,\ 11,\ 14,\ 15,\ 19,\ 21,\ 22,\ 23,\ 30, \\ &\quad\ 31,\ 33,\ 35,\ 38,\ 39,\ 42,\ 43,\ 46,\ 47,\ 51, \\ &\quad\ 55,\ 57,\ 59,\ 62,\ 66,\ 67,\ 69,\ 70,\ 71,\ 77, \\ &\quad\ 78,\ 79,\ 83,\ 86,\ 87,\ 91,\ 93,\ 94,\ 95. \end{aligned}\]
(F)
その他で整数解のない場合 (証明は省略): \[ d = 34.\]

ペル方程式の解の構造

定理《ペル方程式の解の構造》

 $d$ を平方数でない正の整数とする.
(a)
$x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解について, $x+y\sqrt d$ の最小値を $\varepsilon$ とおく. このとき, 各正の整数 $n$ に対して \[\varepsilon ^n = x_n+y_n\sqrt d\] で定まる $(x,y) = (x_n,y_n)$ が $x^2-dy^2 = 1$ のすべての正の整数解を与える.
(b)
$x^2-dy^2 = -1$ の整数解が存在するとして, その正の整数解について $x+y\sqrt d$ の最小値を $\varepsilon$ とおく. このとき, 各正の整数 $n$ に対して \[\varepsilon ^{2n-1} = x_n+y_n\sqrt d\] で定まる $(x,y) = (x_n,y_n)$ が $x^2-dy^2 = -1$ のすべての正の整数解を与える.

補題《共役の乗法性》

 $d$ を平方数でない正の整数とする. $a,$ $b$ が整数のとき, \[\widetilde{a+b\sqrt d} = a-b\sqrt d\] と定める. $a_1,$ $b_1,$ $a_2,$ $b_2$ が整数のとき, $\alpha _k = a_k+b_k\sqrt d\ (k = 1,2)$ について, $\widetilde{\alpha _1\alpha _2} = \widetilde{\alpha _1}\cdot\widetilde{\alpha _2}$ が成り立つ.

補題の証明

 $\alpha _1\alpha _2 = (a_1a_2+b_1b_2d)+(a_1b_2+b_1a_2)\sqrt d$ から, \[\begin{aligned} &\widetilde{\alpha _1}\cdot\widetilde{\alpha _2} = (a_1-b_1\sqrt d)(a_2-b_2\sqrt d) \\ &= (a_1a_2+b_1b_2d)-(a_1b_2+b_1a_2)\sqrt d = \widetilde{\alpha _1\alpha _2} \end{aligned}\] が成り立つ.

定理の証明

(a)
補題と $\varepsilon\tilde\varepsilon = 1$ から, \[\begin{aligned} x_n{}^2-dy_n{}^2 &= (x_n+y_n\sqrt d)(x_n-y_n\sqrt d) \\ &= \varepsilon ^n\widetilde{\varepsilon ^n} = \varepsilon ^n\tilde\varepsilon ^n = (\varepsilon\tilde\varepsilon )^n \\ &= 1^n = 1 \end{aligned}\] が成り立つ. さらに, $(x,y)$ を $x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解とする. このとき, $\varepsilon > 1$ から, \[\varepsilon ^n \leqq x+y\sqrt d < \varepsilon ^{n+1}\] を満たす正の整数 $n$ が存在する. 両辺を $\varepsilon ^n$ で割ると, \[ 1 \leqq (x+y\sqrt d)\varepsilon ^{-n} < \varepsilon\] となる. \[\begin{aligned} &(x+y\sqrt d)\varepsilon ^{-n} = (x+y\sqrt d)\tilde\varepsilon ^n \\ &= (x+y\sqrt d)\widetilde{\varepsilon ^n} = (x+y\sqrt d)(x_n-y_n\sqrt d) \\ &= x'+y'\sqrt d \end{aligned}\] を満たす整数 $x',$ $y'$ をとる. 補題により \[ (x-y\sqrt d)\tilde\varepsilon ^{-n} = x'-y'\sqrt d\] が成り立つので, 辺々を掛け合わせると \[ x'^2-dy'^2 = (x^2-dy^2)(\varepsilon\tilde\varepsilon )^{-n} = 1\cdot 1^{-n} = 1\] が得られる. よって, $\varepsilon$ の最小性により, $x'+y'\sqrt d = 1$ が成り立つ. これから $x+y\sqrt d = \varepsilon ^n$ が得られる.
(b)
補題と $\varepsilon\tilde\varepsilon = -1$ から, \[\begin{aligned} x_n{}^2-dy_n{}^2 &= (x_n+y_n\sqrt d)(x_n-y_n\sqrt d) \\ &= \varepsilon ^{2n-1}\widetilde{\varepsilon ^{2n-1}} = \varepsilon ^{2n-1}\tilde\varepsilon ^{2n-1} = (\varepsilon\tilde\varepsilon )^{2n-1} \\ &= (-1)^{2n-1} = -1 \end{aligned}\] が成り立つ. さらに, $(x,y)$ を $x^2-dy^2 = -1$ の正の整数解とする. このとき, $\varepsilon > 1$ から, \[\varepsilon ^{2n-1} \leqq x+y\sqrt d < \varepsilon ^{2n+1}\] を満たす正の整数 $n$ が存在する. 両辺を $\varepsilon ^{2n-1}$ で割ると, \[ 1 \leqq (x+y\sqrt d)\varepsilon ^{1-2n} < \varepsilon ^2\] となる. \[\begin{aligned} &(x+y\sqrt d)\varepsilon ^{1-2n} = (x+y\sqrt d)(-\tilde\varepsilon )^{2n-1} \\ &= -(x+y\sqrt d)\widetilde{\varepsilon ^{2n-1}} = -(x+y\sqrt d)(x_n-y_n\sqrt d) \\ &= x'+y'\sqrt d \end{aligned}\] を満たす整数 $x',$ $y'$ をとる. 補題により \[ (x-y\sqrt d)\tilde\varepsilon ^{1-2n} = x'-y'\sqrt d\] が成り立つので, 辺々を掛け合わせると \[\begin{aligned} x'^2-dy'^2 &= (x^2-dy^2)(\varepsilon\tilde\varepsilon )^{1-2n} \\ &= (-1)\cdot (-1)^{1-2n} = 1 \end{aligned}\] が得られる. $x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解について $x+y\sqrt d$ の最小値は $\varepsilon ^2$ であるから, $x'+y'\sqrt d = 1$ が成り立つ. これから $x+y\sqrt d = \varepsilon ^{2n-1}$ が得られる.

定理《ペル方程式の平方根の近似計算への応用》

 $d$ を平方数でない正の整数とする. $x^2-dy^2 = 1$ の正の整数解について, $x+y\sqrt d$ の値が小さい順に $(x_n,y_n)$ とおくと, $x_n/y_n$ は $\sqrt d$ に収束する.

高校数学の問題

図形と計量

問題《ヘロンの公式とブラーマグプタの三角形》

 次のことを示せ.
(1)
$\triangle\mathrm{ABC}$ において, 周の半分の長さを $s$ とおく. このとき, \[\triangle\mathrm{ABC} = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\] が成り立つ.
(参考: $2010$ 大阪教育大,$2019$ 京都府立大ほか)
(2)
$3$ 辺の長さが $b-1,$ $b,$ $b+1$ である三角形の面積 $S$ が整数であるとする. このとき, $b$ は偶数であり, $x = \dfrac{b}{2}$ とおくと, ある正の整数 $y$ に対して $x^2-3y^2 = 1$ となる.

解答例

 こちらを参照.

整数の性質

問題《ペル方程式の一般解》

 $\alpha = x+y\sqrt 2$ ($x,$ $y$: 整数) の形に表される各実数 $\alpha$ に対して, $\tilde\alpha = x-y\sqrt 2$ と定める.
(1)
$\alpha = x+y\sqrt 2,$ $\alpha ' = x'+y'\sqrt 2$ ($x,$ $y,$ $x',$ $y'$: 整数) とする. このとき, $\widetilde{\alpha\alpha '} = \tilde\alpha\tilde{\alpha '}$ が成り立つことを示せ.
(2)
$x^2-2y^2 = 1$ の正の整数解 $(x,y)$ を用いて $x+y\sqrt 2$ の形に表される実数の最小値を $\varepsilon$ とおく. $\varepsilon$ の値を求めよ.
(3)
(2) の $\varepsilon,$ 正の整数 $n$ に対して, \[\varepsilon ^n = x_n+y_n\sqrt 2 \quad \cdots [\mathrm A]\] により整数 $x_n,$ $y_n$ を定める. $(x,y) = (x_n,y_n)$ は $x^2-2y^2 = 1$ の解であることを示せ. さらに, $\varepsilon,$ $\tilde\varepsilon$ と $n$ を用いて $x_n,$ $y_n$ を表せ.
(4)
$(x,y)$ を $x^2-2y^2 = 1$ の正の整数解とする. このとき, $(x,y)$ はある正の整数 $n$ に対して (3) の解 $(x_n,y_n)$ と一致することを示せ. $\sqrt 2$ が無理数であることは証明なしに使ってよい.
(参考: $1985$ 東京工業大)

解答例

 こちらを参照.

問題《解をもたないペル方程式》

 方程式 $x^2-3y^2 = -1$ の整数解は存在しないことを示せ.

解答例

 こちらを参照.

式と証明

問題《ブラーマグプタの恒等式とペル方程式》

(1)
$(xu+dyv)^2-d(xv+yu)^2 = (x^2-dy^2)(u^2-dv^2)$ を示せ.
(2)
$u^2-2v^2 = 1$ の正の整数解を $1$ つ求めよ.
(3)
$x^2-2y^2 = -1$ は無限に多くの整数解をもつことを示せ.
(参考: $1998$ お茶の水女子大)

解答例

 こちらを参照.

複素数と方程式

問題《一般リュカ数列の恒等式》

 整数係数 $2$ 次方程式 $x^2-px+q = 0$ が実数解 $\alpha,$ $\beta$ $(\alpha > \beta )$ をもつとし, 各正の整数 $n$ に対して \[ x_n = \alpha ^n+\beta ^n, \quad y_n = \frac{\alpha ^n-\beta ^n}{\alpha -\beta}\] と定める. また, $D = p^2-4q$ とおく.
(1)
$p,$ $q$ を用いて $\alpha +\beta,$ $\alpha\beta,$ $\alpha -\beta$ を表せ.
(2)
等式 \[\begin{aligned} x_1 &= p, & x_2 &= p^2-2q, & x_{n+2} &= px_{n+1}-qx_n \\ y_1 &= 1, & y_2 &= p, & y_{n+2} &= py_{n+1}-qy_n \end{aligned}\] が成り立つことを示せ.
(3)
等式 \[ x_n{}^2-Dy_n{}^2 = 4q^n\] が成り立つことを示せ.

解答例

 こちらを参照.

数列

問題《平方三角数とペル方程式》

(1)
図のように, $l$ 行 $l$ 列の正方形の形に並べられていた石を崩した後, $1$ 段目に $1$ 個, $\cdots,$ $k$ 段目に $k$ 個, $\cdots$ と $m$ 段目まで並べていくと, 正三角形の形に石を余すことなく並べられたとする. このとき, $(x,y) = (2m+1,2l)$ は $x^2-2y^2 = 1$ の解であることを示せ.
(2)
$(x,y)$ を $x^2-2y^2 = 1$ の正の整数解とする. このとき, $x$ は $3$ 以上の奇数であり, $y$ は偶数であることを示せ. さらに, $l = \dfrac{y}{2},$ $m = \dfrac{x-1}{2}$ とおくと, 上記のように, $l$ 行 $l$ 列の正方形の形に並べられた石は $m$ 段の正三角形の形にも並べられることを示せ.
(参考: $1994$ 津田塾大)

解答例

 こちらを参照.

問題《ペル方程式に関する連立漸化式》

 数列 $\{ x_n\},$ $\{ y_n\}$ を \[\begin{aligned} x_1 = 3, \quad x_{n+1} &= 3x_n+4y_n \quad \cdots [1], \\ y_1 = 2,\quad y_{n+1} &= 2x_n+3y_n \quad \cdots [2] \end{aligned}\] で定める.
(A)
数列 $\{ x_n+ky_n\}$ が公比 $r$ の等比数列になるような定数 $k,$ $r$ の組を $2$ 組求めよ. さらに, 数列 $\{ x_n\},$ $\{ y_n\}$ の一般項を求めよ.
(B)
$x_n,$ $x_{n+1},$ $x_{n+2}$ の関係式を求めよ. また, 数列 $\{ x_{n+1}-\alpha x_n\}$ が公比 $\beta$ の等比数列になるような定数 $\alpha,$ $\beta$ の組を $2$ 組求めよ. さらに, 数列 $\{ x_n\},$ $\{ y_n\}$ の一般項を求めよ.

解答例

 こちらを参照.