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複素数

複素数

問題《複素数体における簡約法則》

 複素数 $z,$ $w$ に対して, $zw = 0$ $\Longrightarrow$ “ $z = 0$ または $w = 0$ ” が成り立つことを示せ.
基本定理$2021/03/12$$2022/05/17$

解答例 1

 対偶を示す. つまり, $z,$ $w \neq 0$ であるとして, $zw \neq 0$ を示す. 仮定から $z$ の逆数 $z^{-1},$ $w$ の逆数 $w^{-1}$ が存在して, \[ (zw)(w^{-1}z^{-1}) = z(ww^{-1})z^{-1} = z\cdot 1\cdot z^{-1} = zz^{-1} = 1\] となる. $1 \neq 0$ であるから, $zw \neq 0$ でなければならない ($zw = 0$ とすると, $0 = 0\cdot (w^{-1}z^{-1}) = 1$ となってしまう). ゆえに, 対偶は真であり, 示すべき命題も真である.

解答例 2

 $z = a+bi,$ $w = c+di$ ($a,b,c,d$: 実数) について, $zw = 0$ であるとする. このとき, \[ (a+bi)(c+di) = (ac-bd)+(ad+bc)i = 0\] から, \[ ac-bd = ad+bc = 0\] が成り立つ. よって, \[ (ac-bd)^2+(ad+bc)^2 = 0\] であるから, 左辺を展開して整理すると \[ (a^2+b^2)(c^2+d^2) = 0\] が得られる. ここで, $a^2+b^2,$ $c^2+d^2$ は実数であるから, $a^2+b^2 = 0$ または $c^2+d^2 = 0$ である. $a^2+b^2 = 0$ のとき $a = b = 0$ から $z = 0$ であり, $c^2+d^2 = 0$ のとき $c = d = 0$ から $w = 0$ である.

解答例 3

 $z = a+bi,$ $w = c+di$ ($a,b,c,d$: 実数) について, $zw = 0$ であるとする. \[ zw = (a+bi)(c+di) = (ac-bd)+(ad+bc)i\] の絶対値の $2$ 乗が $0$ であるから, \[ (ac-bd)^2+(ad+bc)^2 = 0\] が成り立つ. 左辺を展開して整理すると, \[ (a^2+b^2)(c^2+d^2) = 0\] が得られる. ここで, $a^2+b^2,$ $c^2+d^2$ は実数であるから, $a^2+b^2 = 0$ または $c^2+d^2 = 0$ である. $a^2+b^2 = 0$ のとき $a = b = 0$ から $z = 0$ であり, $c^2+d^2 = 0$ のとき $c = d = 0$ から $w = 0$ である.

参考

  • 加法, 減法, 乗法が定義され, 結合法則, 交換法則, 分配法則を満たす空集合でない集合を「可換環」(commutative ring) と呼び,「簡約法則」(cancellation law)
    $ab = 0$ $\Longrightarrow$ $a = 0$ または $b = 0$
    を満たす「可換環」を「整域」(integral domain) と呼ぶ.
  • $0$ 以外のすべての要素による除法が定義された「可換環」を「体」と呼ぶ. 有理数全体, 実数全体, 複素数全体はそれぞれ,「有理数体」,「実数体」,「複素数体」と呼ばれる「体」をなす.
  • 解答例 1 と同じ理由により, すべての「体」は「整域」である.

問題《複素数の実部と虚部》

 複素数 $z = x+yi$ ($x,$ $y$: 実数) の実部, 虚部はそれぞれ \[ x = \frac{z+\bar z}{2}, \quad y = \frac{z-\bar z}{2i}\] と表されることを示せ.
基本定理$2023/10/10$$2024/01/03$

解答例

\[ z = x+yi \quad \cdots [1]\] ($x,$ $y$: 実数) のとき \[\bar z = x-yi \quad \cdots [2]\] であるので, $([1]+[2])\div 2,$ $([1]-[2])\div 2i$ から \[ x = \frac{z+\bar z}{2}, \quad y = \frac{z-\bar z}{2i}\] が得られる.

参考

 「$2$ 次体」(こちらを参照) においても, 類似の公式が成り立つ. つまり, $d$ を $1$ 以外の平方数で割り切れない整数とするとき,「$2$ 次体」
$\{ a_1+a_2\sqrt d \mid a_1,a_2$: 有理数$\}$
に属する複素数 $\alpha = a_1+a_2\sqrt d$ ($a_1,$ $a_2$: 有理数) に対して, $\tilde\alpha = a_1-a_2\sqrt d$ とおくと, $a_1,$ $a_2$ は \[ a_1 = \frac{\alpha +\tilde\alpha}{2}, \quad a_2 = \frac{\alpha -\tilde\alpha}{2\sqrt d}\] と表される.

問題《$2$ 次体の整数環における数の分解》

 整数 $a_1,$ $a_2,$ $b_1,$ $b_2$ $(a_1,\ b_1 \geqq 0)$ が \[ 6 = (a_1+a_2\sqrt{-5})(b_1+b_2\sqrt{-5}) \quad \cdots [*]\] を満たすとする.
(1)
$36 = (a_1{}^2+5a_2{}^2)(b_1{}^2+5b_2{}^2)$ が成り立つことを示せ.
(2)
$a_1,$ $a_2,$ $b_1,$ $b_2$ の組 $(a_1,a_2,b_1,b_2)$ をすべて求めよ.
(参考: $2022$ 兵庫県立大)
標準先例$2021/03/06$$2022/07/07$

解答例

(1)
$[*]$ の両辺の共役複素数をとると, \[ 6 = (a_1-a_2\sqrt{-5})(b_1-b_2\sqrt{-5}) \quad \cdots [*]'\] が成り立つ. $[*],$ $[*]'$ の辺々を掛け合わせると, \[\begin{aligned} 6\cdot 6 &= (a_1+a_2\sqrt{-5})(a_1-a_2\sqrt{-5}) \\ &\qquad\times (b_1+b_2\sqrt{-5})(b_1-b_2\sqrt{-5}) \\ 36 &= (a_1{}^2+5a_2{}^2)(b_1{}^2+5b_2{}^2) \end{aligned}\] が得られる.
(2)
$(a_1{}^2+5a_2{}^2)(b_1{}^2+5b_2{}^2) \geqq 5a_2{}^2,$ $5\cdot 3^2 > 36$ であるから, $|a_2| \leqq 2$ である.
(i)
$a_2 = 0$ のとき. $6,$ $a_1+a_2\sqrt{-5} = a_1$ は実数であるから, $b_1+b_2\sqrt{-5}$ は実数であり, よって $b_2 = 0$ である. このとき, $6 = a_1b_1$ から, \[ (a_1,b_1) = (1,6),\ (2,3),\ (3,2),\ (6,1)\] である.
(ii)
$|a_2| = 1$ のとき. $(a_1{}^2+5a_2{}^2)(b_1{}^2+5b_2{}^2) \geqq a_1{}^2+5,$ $6^2+5 > 36$ であるから, $0 \leqq a_1 \leqq 5$ である.
  • $36$ は $0^2+5 = 5,$ $3^2+5 = 14,$ $4^2+5 = 21,$ $5^2+5 = 30$ で割り切れないから, $a_1 \neq 0,$ $3,$ $4,$ $5$ である.
  • $a_1 = 1$ のとき. $a_1{}^2+5a_2{}^2 = b_1{}^2+5b_2{}^2 = 6$ であり, $5\cdot 2^2 > 6$ と $6$ が $5$ で割り切れないことに注意すると, $(a_1,a_2),$ $(b_1,b_2)$ は $(1,\pm 1)$ であることがわかる. このとき, $(a_1,a_2,b_1,b_2)$ として $2^2 = 4$ 通りが考えられるが, そのうち $[*]$ を満たすのは, \[ (a_1,a_2,b_1,b_2) = (1,1,1,-1),\ (1,-1,1,1)\] の場合である.
  • $a_1 = 2$ のとき. $a_1{}^2+5a_2{}^2 = 9$ から, $b_1{}^2+5b_2{}^2 = 4$ よって $(b_1,b_2) = (2,0)$ となり, $a_1+a_2\sqrt{-5}$ は虚数, $b_1+b_2\sqrt{-5} = b_1$ は実数, それらの積は虚数になるが, これは $6$ が実数であることに反する.
(iii)
$|a_2| = 2$ のとき. $(a_1{}^2+5a_2{}^2)(b_1{}^2+5b_2{}^2) \geqq a_1{}^2+20,$ $5^2+20 > 36$ であるから, $0 \leqq a_1 \leqq 4$ である.
  • $36$ は $0^2+20 = 20,$ $1^2+20 = 21,$ $2^2+20 = 24,$ $3^2+20 = 29$ で割り切れないから, $a_1 \neq 0,$ $1,$ $2,$ $3$ である.
  • $a_1 = 4$ のとき. $a_1{}^2+5a_2{}^2 = 36$ から, $b_1{}^2+5b_2{}^2 = 1$ よって $(b_1,b_2) = (1,0)$ となり, $a_1+a_2\sqrt{-5}$ は虚数, $b_1+b_2\sqrt{-5} = b_1$ は実数, それらの積は虚数となるが, これは $6$ が実数であることに反する.
よって, $|a_2| = 2$ となることはない.
(i)~(iii) から, \[\begin{aligned} (a_1,a_2,b_1,b_2) = & (1,0,6,0),\ (2,0,3,0),\ (3,0,2,0),\ (6,0,1,0), \\ &(1,1,1,-1),\ (1,-1,1,1) \end{aligned}\] である.

参考

  • 整数論では, 整数全体より広い数の世界で, 素因数分解のように, 数を積の形に分解して考えることがしばしば有用である.
  • 「可換環」$A$ (加法, 減法, 乗法が定義され, 結合法則, 交換法則, 分配法則を満たす集合) において, $A$ の各要素 $a$ に対して $e\cdot a = a\cdot e = a$ を満たす $A$ の要素 $e$ が存在するとき, $e$ を $A$ の乗法に関する「単位元」(identity element) と呼ぶ. 例えば, 整数全体の集合 $\mathbb Z$ は乗法に関する「単位元」$1$ をもつ「整域」($ab = 0$ $\Longrightarrow$ “ $a = 0$ または $b = 0$ ” を満たす「可換環」) である.
  • $A$ を乗法に関する「単位元」$e$ をもつ「整域」とする. $A$ の要素 $a$ で $aa' = a'a = e$ なる $A$ の要素 $a'$ をもつものを $A$ の「単元」(unit) または「可逆元」(invertible element) と呼ぶ. $A$ の $0$ でも「単元」でもない要素 $a$ が「単元」と $a$ の「単元」倍以外で割り切れないとき, $a$ を $A$ の「既約元」(irreducible element) と呼ぶ. 例えば, $\mathbb Z$ の「単元」は $\pm 1$ の $2$ つで,「既約元」は絶対値が素数に等しい整数である.
  • $A = \{ a_1+a_2\sqrt{-5}|a_1,a_2 \in \mathbb Z\}$ は乗法に関する「単位元」$1$ をもつ「整域」であり, その「単元」は $\pm 1$ の $2$ つである. この $A$ においても, $\pm 1$ 以外のすべての数は「既約元」の積として表すことができるが, その表し方は「単元」倍と順序の違いを除いても一意的でない. $2,$ $3,$ $1\pm\sqrt{-5}$ は「既約元」であることが上記のような方法で確認できるから, \[ 6 = 2\cdot 3, \quad 6 = (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})\] は異なる「既約元」の積への分解である.
  • このような例は,「イデアル」(ideal) の理論の発見の重要なきっかけとなった. 整数の素因数分解は,「デデキント整域」(Dedekind domain) と呼ばれる「整域」における「イデアル」の「素イデアル」(prime ideal) の「積」への分解に一般化されている. 「整域」$A$ において,「イデアル」$I,$ $J$ の「積」は \[ IJ = \left\{\sum_{k = 1}^ni_kj_k|i_k \in I,\ j_k \in J\right\}\] で, 要素 $g_1,$ $\cdots,$ $g_r$ で「生成されるイデアル」は \[\langle g_1,\cdots,g_r\rangle = \{ c_1g_1+\cdots +c_rg_r|c_k \in A\}\] で定まる. 上記の「整域」$A = \{ a_1+a_2\sqrt{-5}|a_1,a_2 \in \mathbb Z\}$ において, \[\begin{aligned} P &= \langle 2,1+\sqrt{-5}\rangle, & \bar P &= \langle 2,1-\sqrt{-5}\rangle, \\ Q &= \langle 3,1+\sqrt{-5}\rangle, & \bar Q &= \langle 3,1-\sqrt{-5}\rangle \end{aligned}\] とおくとき, $\langle 6\rangle,$ $\langle 2\rangle,$ $\langle 3\rangle,$ $\langle 1+\sqrt{-5}\rangle,$ $\langle 1-\sqrt{-5}\rangle$ は \[\begin{aligned} \langle 6\rangle &= P\bar PQ\bar Q, \\ \langle 2\rangle &= P\bar P, & \langle 3\rangle &= Q\bar Q, \\ \langle 1+\sqrt{-5}\rangle &= PQ, & \langle 1-\sqrt{-5}\rangle &= \bar P\bar Q \end{aligned}\] と「素イデアル」の「積」に一意的に分解される.

問題《複素数体が順序体でない理由》

 実数の大小関係が複素数全体に拡張できるとし, 特に $2$ つの複素数の間には必ず大小関係が定まり, すべての複素数 $z,$ $w$ に対して
(A)
($z \geqq 0,$ $w \geqq 0$) または ($z \leqq 0,$ $w \leqq 0$) $\Longrightarrow$ $zw \geqq 0$
(B)
($z \geqq 0,$ $w \leqq 0$) または ($z \leqq 0,$ $w \geqq 0$) $\Longrightarrow$ $zw \leqq 0$
が成り立つとする. このとき, 実数の大小関係について矛盾を導くことで, 実数の大小関係は複素数全体に拡張できないことを示せ.
基本定理$2022/05/25$$2022/10/07$

解答例

 実数の大小関係が複素数全体に拡張できるとすると, (A) が $z = w = i$ に対しても成り立つことから, $i \geqq 0,$ $i \leqq 0$ のどちらであるとしても
$i^2 \geqq 0$ つまり $-1 \geqq 0$
となり, 矛盾が生じる ($-1 < 0$ に反する).
 ゆえに, 実数の大小関係は複素数全体に拡張できない.

参考

 然るべき条件を満たす「順序」が定まった「体」を「順序体」と呼ぶ (こちらを参照). 本問の結果からわかるように,「複素数体」には, 四則演算との相性がよい「順序」が定まらない.
問題一覧 (複素数と方程式)複素数 解と係数の関係
剰余の定理・因数定理 高次方程式